第6章 応報
その頃。
知盛は硬牙を連れて、壇ノ浦へと赴いていた。
「硬牙、どう思う?」
「何がでございますか?」
どこか不安そうな知盛の声音に、硬牙は目を見開く。
「亜弥だ。重衡が上手くやったと思うか?」
「どうでしょう。亜弥様は聡明な方でございますから。」
その言葉に、知盛は空を仰ぐ。
「――ク。後で怒るのだろうな、我が君は。」
どこか楽しそうに、知盛は呟く。
「知盛様、本当に宜しいのですか?」
硬牙の言葉に、知盛は口元を歪める。
「愚問だ、硬牙。万事上手くやれ。」
「御意にございます。」
硬牙はそれだけ言えば、その場から姿を消した。
第45夜~眠ることは容易いと貴方は嘘を吐く~
しばらく海を眺めていれば、後ろから足音が聞こえて来る。
「――来た、か。ようこそ、源氏の神子殿。」
くるりと振り返れば、そこには望美がいた。
「知盛――。やっぱり貴方と戦う運命なんだね。」
「その目は嫌いではないがな。やはり今の俺を高ぶらせてくれるのは一人だけらしい。」
剣を構えながら、流暢に言葉を紡ぐ。
「知盛、覚悟!」
望美も剣を構えれば、知盛に向かって行く。
「お前は何の為に戦う?」
剣を交えながら、知盛は問い掛ける。
「それは――。貴方を死なせたくないから!」
望美の言葉に、知盛は眉根を寄せる。
「俺の為、とでも言うか?それならば余計な世話だ。」
「そんな!」
あっさりと呟かれた一言に、望美は思わず動きを止めた。
その瞬間を見逃さずに、知盛は望美の首元にあった逆鱗を奪い取る。
「ッッ!?知盛、何を?!」
望美は慌てて首元に手をやるが、そこに逆鱗は無かった。
「貴様はこれでもう過去には戻れぬ。」
ニヤリと笑った知盛の手には、白龍の逆鱗が握られていた。