第6章 応報
翌日。
平家は決戦の地、壇ノ浦へと赴いた。
「――亜弥。命が変わった。俺は壇ノ浦には行かず、安徳帝の護衛につく。」
「え――?」
思わぬ知盛の言葉に亜弥は目を見開く。
「還内府殿のご命令だ。行くぞ。」
「あ、知盛様!」
納得出来ない亜弥を余所に、知盛は彼女の手を引いて歩いて行く。
亜弥はその後姿を見つめながらも黙ってついて行く。
「――まぁ、知盛殿?それに十六夜殿まで――。どうしてこちらに?」
安徳帝が乗る船には時子がいた。
「母上。還内府殿の命令で我らが護衛につくことになりました。同船させて頂きますよ。」
「還内府殿が?そうですか――。あなた方が一緒なら心強いですね。帝にもお話して来ましょう。」
ホッとしたように言うと、時子は船の中に入っていた。
それを見送る知盛の顔を、亜弥はジッと見つめる。
第44夜~わたしを組み込む隙間~
「――なんだ?」
亜弥の視線に気付いた知盛がゆっくりと振り返る。
「――どういうおつもりですか?重衡様。」
真摯な亜弥の瞳が、彼の瞳を射抜く。
しばらく見つめあった後、彼は苦笑を洩らした。
「何故、私だとお分かりになりました?」
髪をぐしゃぐしゃと戻せば、重衡の顔へと戻る。
「ご冗談を。夫の雰囲気ぐらい見分けられますわ。」
そっと重衡の髪を直してやりながら、亜弥は呟く。
「あの方は私を置いて行かれたのですね。」
不意に亜弥は哀しそうに笑う。
「――義姉上。どうか兄上をお責めになりませぬよう。これが最善の策だったのです。」
その言葉に、亜弥は目を反らす。
「つまり――。重衡様も知盛様の考えを知っていらっしゃるのですね。私だけがまた何も知らない。」
「義姉上のお気持ちは分かります。ですが、ここは我らを信じて下さいませんか?」
亜弥の肩を掴めば、重衡は自分の方を向かせる。
その瞳は知盛と同じ紫暗の瞳をしていて、亜弥は何も言えなくなってしまう。
やがて船は出港した。