第6章 応報
彼らは、人目を引く。
銀色の髪に、紫暗の瞳を持つ兄弟。
双子かと見まごう程に似ていたが、性格はまるで正反対だった。
「――ク。昔からお前はそうだったな。」
「何です?唐突に。」
人目を憚るように、奥の部屋へと歩きながら知盛が言う。
「昔からお前は俺に興味が無さそうで、誰よりも固執していたな。」
「そうかも知れませんね。兄上は昔から、私が欲しいものを全て手に入れておられた。きっと羨ましかったのですよ。」
どこか他人事のように言う重衡に、知盛は眉根を寄せる。
「――亜弥も、か。」
「ご冗談を。義姉上に恋心など抱いておりませんよ。あくまで兄上の妻だと認識しておりますから。」
重衡は亜弥の事になると見境がなくなる知盛に苦笑しつつ、そう告げてやる。
「フン――。まぁ、良い。重衡、これが何だか分かるか?」
知盛は首元に下げていた白龍の逆鱗を取り出す。
「コレ、は?鱗――、ですか?」
初めて見る物体に、重衡は首を傾げる。
「白龍の逆鱗と呼ばれるモノだ。」
「逆鱗――。そう言えば経正殿から聞いた事があります。白龍の逆鱗は時空を跳躍出来るとか。」
「ほう。知っていたか。」
知盛と違って経正や重衡は書物など文学にも長けていた。
「――これが本物だとして。何故、兄上がお持ちなのです?」
まじまじと逆鱗を見ながら、重衡は問う。
縁側に腰を掛ければ、知盛は以前の出来事を話してやる。
重衡は全ての話が終わるまで、黙ったまま聞いていた。
第43夜~言い訳にしては生臭い~
「――と言う訳だ。重衡。お前はどう思う?」
「どうもこうも――。実際に兄上が体験なさったのだから嘘だと言う訳にも行かぬでしょう。しかし――。源氏の神子がこのような物を持っていたとは。道理で我が一族でも歯が立たぬ訳ですね。」
それは少しだけ皮肉が混じっていた。
「兄上のお気持ちは分かりました。確かにそれでは義姉上をお連れする訳には参りませぬ。義姉上は私がお連れしましょう。」
「あぁ、頼んだぞ。」
静かに静かに、月だけが全てを見つめていた。