第6章 応報
「――亜弥?眠れないのか?」
知盛は窓側で外を眺める亜弥に、布団の中から声を掛ける。
「いえ――。」
起きている事に多少驚きながらも、視線を寄こさずに言う。
「何を怒っている?」
知盛は布団から出れば亜弥の側まで行くと、顎を掴んで自分の方を向かせる。
「――怒られるようなお心当たりがお有りですか?」
「ク――。どうやら我が奥方は、相当お怒りらしい。」
珍しく自分に牙を向く亜弥に知盛は不敵に笑った。
そのまま知盛は、亜弥を乱暴に組み敷いた。
第41夜~蒼く蒼く噎せ返る向日葵の夏の記憶~
「ッッ!?」
「たまには悪くない。」
「離して下さい!」
喉を鳴らして笑う知盛に、亜弥は嫌悪を露わにする。
「そんなに嫌だったか。俺があの女の隣にいるのは。」
全て見透かしたように笑う知盛が少しだけ憎らしい。
「貴方はいつもそう。全て見透かしていて。私だけ何も知らないままでもがいてる。」
ポツリと喋り始める亜弥に知盛はフッと笑いを零す。
「気の強い女は好きだがな。お前は関わらなくて良い事だ。理解しろ。」
紫暗の瞳に見透かされれば、亜弥は思わず頷いてしまいそうになる。
「私に教えて下さる気はないのですか?」
「今は、な。全てが終わったら教えてやる。それまでは箱庭の中にいろ。」
それだけ言えば、知盛は話は終わりだとばかりに深い口付けをする。
亜弥は呑まれて行く意識の中で、銀色の髪だけを見つめていた。
「ズルイ人。」
肌に掛かる髪にくすぐったさを覚えながら、亜弥は呟く。
「フン。今更褒め言葉にしか聞こえんぞ。」
その言葉に笑えば、知盛は亜弥の肌に赤い華を散らして行く。
それぞれの思考が交錯する中、知らぬところで物語は渦巻いて行く。
熊野が中立を保つと結論を出したのは翌日のこと。
亜弥達はホッとしながらも一旦熊野を後にした。
その後生田神社での戦いや鎌倉での騒動が襲いかかる。
時は流れ、再び壇ノ浦にて源氏と平家は相まみえることになる。
残酷な残酷な物語が待ち受けているとも知らずに。
彼らは決戦の地へと向かうのだ。