第6章 応報
部屋に入って間もなく、長旅のせいか子供二人は眠りに付いた。
慣れた手付きで寝かし付ける知盛を、望美はただただ呆然と見つめていた。
「――面白いか?」
視線に気付いた知盛が問い掛ける。
「信じられないだけ。貴方が子供をあやしてるなんて――。」
「ふん――。神子殿は一体どんな『俺』を知っておられるのやら。」
挑戦的とも取れる知盛の言葉に、反応する余裕は今の望美にはなかった。
その頃。
隣の部屋では、重衡が酒を煽っていた。
「驚かせてしまいましたね。すみません、義姉上。」
「謝るのは亜弥にだけか?」
酒の相手をしていた将臣が、皮肉そうに言う。
「おや、これは失敬。申し訳ない、重盛兄上。」
「お前、絶対思ってないだろ。」
そんな二人に笑いながら、亜弥は隣の部屋に視線をやる。
「気になりますか?」
不意に問われた言葉に、亜弥は苦笑する。
「――気にならない、と言ったら嘘になりますわね。」
「大丈夫ですよ、義姉上。兄上は貴女以外、見えてなどいらっしゃいません。」
絶対的な自信を持って言い放つ重衡に、亜弥はゆっくりと微笑んだ。
第40夜~私を月に置去りにして~
「――子供までいたなんて。」
宿を後にした望美は、帰りの道で呟く。
送って行く為に付いて来た将臣は、掛ける言葉に困っていた。
「あ~、あのな。別に黙ってたわけじゃねぇんだ。っつか俺がこの世界に来た時には、もう知章はいたしな。」
がしがしと頭を掻きながら将臣は言う。
「あんなの知盛じゃない。知盛じゃないよ――。」
泣き出しそうな望美の言葉に、将臣は眉根を寄せる。
「じゃあお前はどんなのがアイツだって言うんだ?」
「それは――。」
言葉に詰まる望美の頭を、将臣は優しく撫でてやる。
「なぁ、望美。お前が何か隠してることは分かってる。――あんま自分を追い詰めんなよ?」
それは切なる願いだった。