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鏡花水月【遥かなる時空の中で3】

第6章 応報


部屋に入って間もなく、長旅のせいか子供二人は眠りに付いた。
慣れた手付きで寝かし付ける知盛を、望美はただただ呆然と見つめていた。

「――面白いか?」

視線に気付いた知盛が問い掛ける。

「信じられないだけ。貴方が子供をあやしてるなんて――。」
「ふん――。神子殿は一体どんな『俺』を知っておられるのやら。」

挑戦的とも取れる知盛の言葉に、反応する余裕は今の望美にはなかった。
その頃。
隣の部屋では、重衡が酒を煽っていた。

「驚かせてしまいましたね。すみません、義姉上。」
「謝るのは亜弥にだけか?」

酒の相手をしていた将臣が、皮肉そうに言う。

「おや、これは失敬。申し訳ない、重盛兄上。」
「お前、絶対思ってないだろ。」

そんな二人に笑いながら、亜弥は隣の部屋に視線をやる。

「気になりますか?」

不意に問われた言葉に、亜弥は苦笑する。

「――気にならない、と言ったら嘘になりますわね。」
「大丈夫ですよ、義姉上。兄上は貴女以外、見えてなどいらっしゃいません。」

絶対的な自信を持って言い放つ重衡に、亜弥はゆっくりと微笑んだ。





第40夜~私を月に置去りにして~







「――子供までいたなんて。」

宿を後にした望美は、帰りの道で呟く。
送って行く為に付いて来た将臣は、掛ける言葉に困っていた。

「あ~、あのな。別に黙ってたわけじゃねぇんだ。っつか俺がこの世界に来た時には、もう知章はいたしな。」

がしがしと頭を掻きながら将臣は言う。

「あんなの知盛じゃない。知盛じゃないよ――。」

泣き出しそうな望美の言葉に、将臣は眉根を寄せる。

「じゃあお前はどんなのがアイツだって言うんだ?」
「それは――。」

言葉に詰まる望美の頭を、将臣は優しく撫でてやる。

「なぁ、望美。お前が何か隠してることは分かってる。――あんま自分を追い詰めんなよ?」

それは切なる願いだった。
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