第2章 巡会
「亜弥様。知盛様から、今夜はこちらに戻れぬとの事にございます。」
「そう――。有難う。」
侍女に礼を言うと、亜弥は庭へと出た。
亜弥がこの世界に来て、既に三ヶ月が経とうとしていた。
「――今日は、十六夜の月かしら。」
月を見上げていた亜弥の耳に、狐の鳴き声が聞こえて来る。
「――狐?」
亜弥が声のする方へ行くと、狐が二匹いた。
一匹は怪我をしており、もう一匹がそれを心配そうに見ている。
「大変!おいで!」
亜弥が怪我をしている狐に手を伸ばすと、もう一匹が亜弥を牽制する。
「大丈夫。治して上げるから、いらっしゃい。」
亜弥が微笑むと、狐は警戒を解き亜弥の元へと寄った。
「もう大丈夫ですわ、亜弥様!怪我が治れば、すぐにでも山に帰れます。」
手当てをした侍女が、心配そうに見ていた亜弥に笑う。
「良かった。有難う。」
侍女は亜弥に一礼すると、部屋を出て行った。
狐は二匹が、寄り添って寝ている。
「ふふ。可愛い。今日は側にいてあげるからね。」
亜弥は二匹に微笑むと、横に寝そべった。
第4夜~葬られた昨日~
その夜、亜弥は世にも奇妙な体験をする事となる。
「―――様!亜弥様!起きて下さいませ!」
「ん――?誰?」
亜弥は聞き慣れない声に、不思議そうに目を凝らす。
完全に覚醒した亜弥の前にいたのは、少年と少女だった。
「――どこの子?」
「亜弥様。我々は、妖狐にございます。」
二人は亜弥にひれ伏すと、説明を続けた。
「怪我をしていた所を助けて頂き、誠に有難うございました。」
「――え~と。妖狐って、まさか?」
先程狐が寝そべっていた所に、狐がいない事に気付く。
「私の名は、瑠璃と申します。こちらは、兄の硬牙でございます。以後、お見知りおきを。」
妖狐は亜弥の側に仕えたいと、そう願い出た。
翌日帰って来た知盛に了承を得て、二匹は亜弥付きの側仕えとなった。