第1章 邂逅
「おい、亜弥。酒を用意しろ。」
「畏まりました。」
亜弥が知盛に拾われてから、一週間が経とうとしていた。
酒を持ってくると、慣れた手つきでお酌をしてやる。
「見ろよ。十六夜の月だ。丁度お前が現われた時と、同じだな――。」
「そうですね。知盛様にお会いして一週間ですか。」
亜弥が、何気なく空を見上げる。
その姿は妖艶で、知盛は無意識に亜弥を組み敷いていた。
「知――、知盛様?!」
亜弥は驚いたように、声を上げる。
知盛は薄く微笑むと、亜弥の唇に噛み付くように口付けた。
「ふっ?!――んん!」
亜弥の口から、苦しげな声が漏れる。
「――嫌!やめてください!」
亜弥は涙ながらに、懇願する。
けれどそれは、知盛の情欲を掻き立てるだけだった。
「お前は俺のモノだろう?拒否する事は許さん。」
知盛はそう言うなり、亜弥の胸へと手を這わす。
第3夜~色褪せた過去~
迷いのない手が亜弥を責め立てる。
知盛は乱暴だけれども、どこかその手は慈しむようで亜弥は戸惑う。
「――知盛様は酷い人ですね。」
ぐったりとしたままそう言う亜弥に、知盛は不思議そうに首を傾げる。
「何が言いたい?」
「そのままの意味です。手酷く抱いてくれたのなら嫌いになれたのに。」
「フン。飼い猫の言葉ではないな。」
そう言いながら、知盛は亜弥の頭を撫でてやる。
その手の暖かさに亜弥は睡魔に襲われる。
「寝てしまえ。――まだ夜明けは遠い。」
「目が覚めるまで側にいて下さいますか?」
その問いに知盛は肯定するように亜弥を抱き寄せた。
この頃から、平家ではある噂が飛び交う様になる。
『平知盛が、女を囲っている』、と。
その噂を決定付ける様に、知盛は激しかった女遊びをパタリと止めたのである。
けれど彼はどんなに言われても、亜弥を人目に晒す事は無かった。
屋敷の奥に仕舞い込み、誰の目にも触れぬ様にしたのだ。
唯一面会を許されていたのは、知盛と数名の侍女だけだった。
亜弥はそれを不満に思う事も無く、静かに時は流れて行ったのである。