第6章 応報
「見えた!あの侍女が怨霊なの!」
視線の先には数人の供を伴っている後白河院がいた。
「オイオイ。後白河院の御前じゃ手の出しようがねぇぞ。」
「そうなんだよね。」
将臣と望美が困り果てる中、知盛は亜弥の手を引いて歩き出す。
「と、知盛様?!」
「おい、何する気だ!知盛!」
相変わらずの彼の行動に、皆驚きを隠せない。
「面倒だ。あの女が怨霊なのは間違いないのだろう。」
それだけ呟けば、知盛は後白河院の目の前まで行く。
「――?おぉ、これは!新中納言殿ではないか。それに確か奥方は――、十六夜と申したか?」
知盛の姿を目に止めれば、後白河院は嬉しそうに声を掛ける。
第38夜~鉄屑を焦す火種に願いを込めて~
「ご無沙汰しております、院。ですが、私にその様な呼び名は相応しくない。宮中を追われた身ですからな。」
恭しく頭を垂れる知盛に、亜弥も合わせる。
「そう言うな、知盛殿。今日は夫妻で熊野に避暑にでも来られたのか?」
「まぁ、その様なところ――。院、御前にて失礼致しますよ。」
「何を?!」
それは一瞬の出来事だった。
知盛が剣に手を掛けた次の瞬間には、侍女が斬られ怨霊の姿を現していた。
「新中納言。これはどういう事だ?!」
「見ての通りですな。ご寵愛の侍女は怨霊にございまする。十六夜、院をお連れしろ。」
怨霊に向かいあったまま、知盛は淡々と命令を下す。
「かしこまりました。院、どうぞこちらへ。」
亜弥が後白河院を連れて後方に下がったのを見届けて知盛は怨霊に斬り掛かる。
「きしゃあああ!」
「――眠れ。」
鮮やかな弧を描いて、知盛の剣先が怨霊を捉える。
「知盛!」
将臣と望美が駆け付けた頃には、全てが終わっていた。
「ったく。何て無茶しやがる。冷や冷やしたぜ。」
「ふん。万事上手く行ったんだ。問題なかろう。」
知盛はしれっと言い放てば、亜弥の元へ向かう。
そんな彼の様子に将臣はため息をつくしかなかった。