第5章 記憶
「――コレ、は。」
時を遡った日。
夜の月に照らされながら、知盛は逆鱗を翳して呟いた。
「――知盛様?こんな夜更けに何をしておいでです?」
ふと知盛の姿を見付けた硬牙が歩み寄る。
「硬牙か。妖狐のお前なら知っているやも知れぬな。コレが何か分かるか?」
知盛は少し考えるも、硬牙に逆鱗を見せる。
「コレ、は。白龍の逆鱗?!知盛様、一体どこでコレを?!」
逆鱗が何か分かると、硬牙の顔色が変わる。
「白龍の逆鱗?何だ、ソレは。」
驚く硬牙を他所に、知盛は訝しげに問い掛ける。
「――言い伝えです。白龍の喉から取った逆鱗には、時空を行き来する力が秘められていると伝え聞いておりますが――。」
硬牙の言葉に、知盛の口角が上がる。
「――成る程、な。その言い伝えはどうやら本当だったらしい。」
「まさか?」
硬牙の問い掛けに、知盛は一連の出来事を話してやる。
知盛が語る真実に、硬牙は静かに耳を傾けていた。
「――亜弥様が。」
「あぁ。つまり、だ。俺は今回鎌倉には行かぬ。そうすれば亜弥は無事でいられるだろうからな。」
「かしこまりました。では鎌倉には私が参りましょう。」
硬牙の提案に知盛は頷いた。
第35夜~腐敗してゆく白い夏~
「知盛様?本当に知盛様までご一緒で宜しかったのですか?」
翌日。
早々に知盛は重衡や安徳帝と共に、亜弥を伴って京へと向かった。
「そうですよ、兄上。戦好きの貴方らしくもない。私一人でもお守り出来ましたのに。」
兄らしくない行動に、重衡も不思議に思う。
「――別に。俺だってたまには戦から離れたかっただけだ。」
「知盛様?」
明らかに普段と違う彼の様子に、亜弥は戸惑う。
けれど知盛は物思いに耽るだけで語ることは無かった。
その後、間もなく三草山の決戦に終幕が訪れる。
両方の痛み分け・敦盛の行方不明と言う変わらぬ事実を残して。
ただ一つ違うのは、亜弥が生きていると言うこと。