第5章 記憶
伝令の言葉を聞いた知盛の顔色が変わる。
「何?!――奴らを捕らえて置け!」
「御意!」
知盛はそれだけ命令すれば、足早に亜弥の元へ急ぐ。
「亜弥!貴様、亜弥を射抜いたとはどう言う事だ?!」
「も――、申し訳有りません!」
すぐにでも衛兵を殺しそうな勢いで、知盛が詰め寄る。
けれどその怒りも亜弥の姿を見れば、どこかに行ってしまった。
「亜弥――。亜弥、俺だ。分かるか?」
彼女を抱き上げれば、知盛は顔を覗き込む。
「とも――、もりさま。申し訳――、ございません。」
「喋らなくて良い。すぐに医師に見せる!」
亜弥が喋った事に安堵すれば、知盛は医師を呼ぶよう目配せする。
「――とも、もりさま。愛、しています――。」
亜弥はニコリと笑えば、静かにその目を閉じた。
「――ッッ!亜弥!!」
知盛の叫び声など、誰も聞いた事が無かった。
彼の悲痛な声は、平家の陣全てに響き渡った。
「――目を覚ませ――。俺を一人にするな――。」
初めて吐く弱音。
それと同時に、知盛は一度も流したことの無い涙を流した。
知盛の目から溢れた涙は、ポタリと亜弥の手に落ちる。
その瞬間、亜弥の手の中で何かが光った。
「――?」
知盛は不思議に思えば、彼女の掌を開ける。
光っていたのは、望美が残して行った逆鱗だった。
「何だ、コレは――。」
知盛が光る逆鱗を手にした瞬間、全ての景色が反転した。
「――?!」
見えるは白い光と、どす黒い闇。
様々な場面が交錯する中、知盛の意識は宙をさまよう。
第34夜~北極星が墜落中~
「――私が共にと願えば、知盛様はお連れ下さいますか?」
やがて意識を取り戻した知盛に、亜弥が問い掛ける。
コレは夢ではないのか。
目の前の愛しい女を、知盛は抱きしめた。