第5章 記憶
「源氏の神子殿は現れたか?」
前線にて知盛は、源氏を待ち構えていた。
「いえ。ですが屋敷中に火の手が上がっておりますので、もう間もなくかと。」
その言葉に頷けば、知盛は亜弥に向き直る。
「亜弥。お前は本陣にいろ。良いな?」
「はい。知盛様。どうぞご武運を。」
亜弥の言葉に頷けば、知盛は衛兵に彼女を託す。
亜弥がその場を離れて間もなく、九郎や弁慶・ヒノエ・景時らが知盛の前に現れる。
「これはこれは――。八葉殿が揃いも揃ってご滞在とは。」
「平知盛!火矢を放ったのはお前か?!」
「知れたこと。源氏の神子殿を引き渡して頂こう。」
「戯言をほざくな!」
間もなく、戦いが始まった。
第32夜~微睡む曖昧な日々~
「神子、急いで!」
その頃。
白龍に連れられて望美は屋敷の中に入ろうとしていた。
「白龍!離して!私、皆を置いてはいけない!」
「ダメだよ!貴女が捕まっては絶対ダメ!」
「でも!」
愚図る望美を白龍はその小さな身体で引っ張る。
その様子を本陣に戻る亜弥は偶然目撃した。
「――望美?!何であの子がここに?!」
亜弥からすると火の手が上がる屋敷の中に、望美がいる事になる。
二人の会話等、知る由も無い亜弥は考えるより先にそちらへと走り出した。
「北の方様?!」
亜弥の突然の行動に、衛兵達も慌てて後ろを追う。
「これを使って、神子!逆鱗を使えば運命を上書き出来るから。」
「白龍!こんなのダメだよ!」
自分を犠牲にして逆鱗を渡す白龍に、望美は涙を流しながら首を振る。
「望美!早く逃げて!」
二人の間を裂く様に、亜弥の悲痛な悲鳴が轟く。
「亜弥ちゃん?!何でここに?!」
望美は予想をしていなかった亜弥の登場に目を見開く。
「焼け死んじゃうわ!早く逃げて!」
望美に走り寄りながら、亜弥が叫ぶ。