第5章 記憶
三草山の決戦前夜。
知盛は源氏の虚をつく為、鎌倉にいた。
「――ココ、か。」
「知盛様?これから何を?」
知盛について来た亜弥が後ろから問い掛ける。
「源氏の元を絶やしてしまえば、話は早いと思わないか?」
彼の目は狂気に満ちていた。
普段は形を潜めていた戦好きの本能が目を覚ましたのだろう。
亜弥は少しだけその狂気を心配しながらも、目の前にある屋敷を見つめる。
「――戦はやはり好みません。」
「お前は好まなくて良い。苦しいのなら戻っているか?」
そう心配する紫暗の瞳は酷く優しくて。
亜弥は自分が惚れた彼なのだと安心する。
「いえ。知盛様の罪は私の罪。全て見届けます。」
きっぱりと言い放つ亜弥に知盛は口角を上げる。
「――上等だ。放て。」
知盛が手を振り下ろすと、一斉に火矢が放たれる。
屋敷にはあっという間に火の手が上がった。
第31夜~夢魔と逢い引き~
一方。
その屋敷には望美を始め、八葉達が寝静まっていた。
「――ん。熱い?」
望美は不自然な暑さに目を覚ます。
目を覚ました望美の眼前には、オレンジに染まった障子が目に入って来た。
「火事?!」
「望美さん!急いで!火矢が放たれました!屋敷が焼けるのも時間の問題です!」
同時に弁慶が飛び込んで来る。
「弁慶さん!火矢ってどういう事?!」
「詳しい話は後です!今は避難が優先ですよ!」
そう言えば弁慶は望美に自分の羽織を被せ、彼女を連れて屋敷の外に出る。
「先輩!無事で良かった!」
弁慶と望美の姿を見付けた譲が、走り寄って来る。
「譲くん!どう言うことなの?!」
「マズイね。どうやら火を放ったのは平家らしい。囲まれてるよ。」
一足先に状況を把握したヒノエが悔しそうに言う。
源氏の置かれた状況は、既に絶体絶命だった。