第4章 虚構
「知盛様!お待ち下さいませ!」
パタパタと足音を鳴らして知盛の後を追い掛ける。
「――どうした?」
「どうした、では有りません。何か私に隠しておいでですか?」
振り返れば真剣な亜弥の目と視線が合う。
知盛はふっと微笑めば、ゆっくりと亜弥の頬を撫でた。
「――是と言えば、どうする?俺を嫌うか?」
知盛らしからぬ問い掛けに、亜弥は僅かだが面食らう。
けれどすぐにニッコリと綺麗な笑みを浮かべた。
「まさか。知盛様がお話したくないのなら聞きません。ただ、隠し事がるのか無いのかだけ教えて下さればそれで結構です。」
亜弥の言葉に、知盛は口角を上げる。
出来た女だ、とそう思う。
「そうか。――亜弥、俺はお前に隠し事をしている。それは今はまだ言えぬ。」
「はい。」
知盛の口から語られる言葉に、亜弥はしっかりと頷く。
「だが時が来れば全て話す。お前は何も心配せずに、俺の側にいればそれで良い。」
「かしこまりました。」
その言葉に深々と礼をすれば、亜弥は広間へと戻った。
第30夜~絶望を喰う~
亜弥がその場を離れて、すぐに硬牙が現れる。
「――知盛様。宜しいのですか?亜弥様にはお話しても差し支えないのでは?」
硬牙の方は向かずに、知盛は庭先へと視線を向ける。
「――いや。アレは余計な心配をするからな。コレはお前と俺だけの話だ。決して瑠璃にも漏らすな。」
「御意。」
再確認する様に頭を下げれば、硬牙はその場から姿を消した。
その様子を横目で見れば、知盛は柱にもたれ掛かった。
「――さて。そろそろ動くとするか。」
口元が妖しく笑っていたのを知る者はいない。
知盛の真意は、彼と硬牙以外知る者はいなかった。
ここから話は少し、前後する。
全ては三草山での決戦前夜。
知盛は夢を見た。
彼の中で一番失いたくないモノを失う夢。
――否。
夢では無く、現実。