第1章 邂逅
「将臣!な~に、サボってんのよ?」
「おゥ、亜弥か!」
屋上に亜弥が出て見ると、将臣が先客としていた。
「いっけないんだ!譲と望美に、言いつけるよ~?」
亜弥が、楽しそうに笑う。
「お前も同罪だろ~が!」
将臣がそう言うと、亜弥も隣に寝転がった。
有川将臣と支倉亜弥は、幼馴染だった。
家も近所なので幼い頃から彼の弟の譲と、同じく幼馴染の春日望美とつるんでいた。
亜弥は幼馴染としか認識していないが、将臣はずっと亜弥の事が好きだった。
亜弥は近所では有名な、華道の家元の娘だ。
舞を幼い頃から嗜み、剣道などにも長けた女性だった。
見た目も着物の似合う和風美人で、頭も良い。
特に歴史などに関しては、右に出る者はいないぐらいだ。
そんな出来すぎた彼女だからこそ、将臣は自分の気持ちを打ち明けられないでいた。
「ど~したの?将臣!ボーッとしちゃって!」
寝転がる将臣を、亜弥が上から覗き見る。
「何でもねぇよ!」
将臣が照れたように顔を背けると、亜弥はぶつぶつ言いながらその横に座り込んだ。
亜弥の腰まである綺麗な黒髪が、風に揺れる。
太陽に照らされた彼女はどこか儚げで、今にも消えてしまいそうだった。
「なぁ――。」
将臣は無意識に、亜弥の手を掴む。
亜弥は驚いたように、将臣を振り返った。
第2夜~泣きたくなる様な美しい朝~
「何?急にどうしたのよ、将臣!」
将臣は亜弥を握る手を、より一層強く握り締めた。
「ちょっ――!将臣!痛いってば!」
亜弥が痛みに顔を顰めるが、将臣は離そうとしない。
「なぁ――、亜弥。お前どこにも行かないよな?」
将臣が消え入りそうな声で、亜弥に問う。
将臣の言葉に、亜弥は思わず噴出した。
「や~ね、将臣!何言ってんの!私はどこにも、行かないわよ!」
そう笑った彼女の顔が、何故だか頭から離れそうも無かった。