第4章 虚構
その夜。
将臣は知盛を呼び出した。
暗い砂浜に影が映し出される。
「――何だ、こんな時間に。」
既に眠気がやって来ているのか知盛の機嫌は悪い。
けれど将臣はそんな事は気にも留めず口を開く。
「――何故、望美を連れて来た?」
その言葉に、知盛は気だるそうに視線を寄越す。
「これはこれは。重盛兄上にはお気に召さない趣向でしたかな?」
「茶化すなよ。お前の真意が知りたいんだ。」
この男はいつもこうだ。
全てを見透かした上で、人を手のひらで転がす。
将臣にはそれが腹ただしかった。
知盛は少し考えるが、やがて口を開いた。
「――別に真意などない。たまたまあの女と遭遇した。そしたらお前の事を聞かれたから連れて来てやったまでだ。」
「本当だな?」
知盛は答えない。
静かな静寂に、波の音だけが鳴り響いた。
「話はそれだけか?俺は眠いんだ。戻るぞ。」
知盛はそれだけ言えば、踵を返して歩き出す。
「知盛!――望美を傷付けるな。お前には亜弥がいるんだ。もう十分だろ?」
将臣の悲痛な言葉に、僅かだが知盛の口角が上がる。
「――勘違いをするな。俺の興味はあの女には無い。」
振り返れば抑揚の無い声でそう告げる。
その言葉に、将臣は安堵のため息を漏らした。
「信じるぜ、――義弟。」
知盛に追いつけば、肩を叩いてそう告げる。
そのまま将臣は知盛を残して、その場を離れた。
第28夜~春の跫~
「――クク。義弟、ね。もう良いぞ、硬牙。出て来い。」
将臣の姿が無くなれば、暗闇へと声を掛ける。
すると硬牙が姿を現した。
「いつからお気付きに?」
「可笑しな事を言う。お前、気配を隠していなかっただろう?」
知盛の言葉に、硬牙は深く頭を下げた。
その後、遅くまで二人の姿はその場にあった。