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鏡花水月【遥かなる時空の中で3】

第4章 虚構


その夜。
将臣は知盛を呼び出した。
暗い砂浜に影が映し出される。

「――何だ、こんな時間に。」

既に眠気がやって来ているのか知盛の機嫌は悪い。
けれど将臣はそんな事は気にも留めず口を開く。

「――何故、望美を連れて来た?」

その言葉に、知盛は気だるそうに視線を寄越す。

「これはこれは。重盛兄上にはお気に召さない趣向でしたかな?」
「茶化すなよ。お前の真意が知りたいんだ。」

この男はいつもこうだ。
全てを見透かした上で、人を手のひらで転がす。
将臣にはそれが腹ただしかった。
知盛は少し考えるが、やがて口を開いた。

「――別に真意などない。たまたまあの女と遭遇した。そしたらお前の事を聞かれたから連れて来てやったまでだ。」
「本当だな?」

知盛は答えない。
静かな静寂に、波の音だけが鳴り響いた。

「話はそれだけか?俺は眠いんだ。戻るぞ。」

知盛はそれだけ言えば、踵を返して歩き出す。

「知盛!――望美を傷付けるな。お前には亜弥がいるんだ。もう十分だろ?」

将臣の悲痛な言葉に、僅かだが知盛の口角が上がる。

「――勘違いをするな。俺の興味はあの女には無い。」

振り返れば抑揚の無い声でそう告げる。
その言葉に、将臣は安堵のため息を漏らした。

「信じるぜ、――義弟。」

知盛に追いつけば、肩を叩いてそう告げる。
そのまま将臣は知盛を残して、その場を離れた。





第28夜~春の跫~





「――クク。義弟、ね。もう良いぞ、硬牙。出て来い。」

将臣の姿が無くなれば、暗闇へと声を掛ける。
すると硬牙が姿を現した。

「いつからお気付きに?」
「可笑しな事を言う。お前、気配を隠していなかっただろう?」

知盛の言葉に、硬牙は深く頭を下げた。
その後、遅くまで二人の姿はその場にあった。
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