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鏡花水月【遥かなる時空の中で3】

第4章 虚構


夕飯が終われば、知盛は当たり前の様に亜弥の膝に横になった。
亜弥はと言えば着物を繕いながら、同じく当たり前の様に知盛を受け入れた。
そんな二人の様子を、望美はただただ眺めるしか出来ない。

「――知盛様。アレを亜弥様に、お渡ししなくて宜しいのですか?」

茶菓子を運んで来た硬牙が、眠りに付こうとする知盛に声を掛ける。

「ん――?あぁ、そうだったな。」
「まぁ、何ですか?」

起き上がった知盛に、亜弥は期待の眼差しを向ける。

「――やる。市を通ったら見付けた。土産だ。」

着物の袖口から、包装も何もしていない簪を徐に取り出す。
亜弥はそれを嬉しそうに受け取った。

「――コレを私に?買って下さったのですか?」
「お前以外に、誰に買うんだ?」
「――亜依とか?」

簪を瑠璃に付けて貰いながら、亜弥が悪戯気味に答える。

「ク――。違いない。アレにも何か買って帰らねば、な。」

苦笑する知盛の目は酷く優しく、望美はそのまま倒れてしまいたかった。




第27夜~酔狂な鬱蝉~





今まで彼の傍らには、自分以外の女はいなかった。
だから望美は、彼に恋をした。
なのに。
今は亜弥が、隣で微笑んでいる。
それは望美に取って、受け入れ難い事実だった。

「出来ましたわ!知盛様、いかがですか?」

簪を付け終えた瑠璃が、誇らしそうに知盛に声を掛ける。

「――思った通りだな。お前には、朱が良く映える。」

満足そうに言えば、亜弥の髪を一筋取りそして口付けた。

「有難うございます。大事にしますね。」

亜弥は僅かに頬を紅潮させながら、簪を撫でた。

「――私、帰る!」

突然、望美が立ち上がる。

「は?あ、おい!望美!送って行くぜ!」

慌てて将臣が立ち上がるが、望美は頭を振った。

「良いから!――じゃあ、お休みなさい!」

亜弥には視線をくれずに、そう言えばバタバタと部屋を後にした。
残された亜弥や将臣は、呆然と望美の後姿を見ていた。
唯一人、知盛の口元にだけは笑みが浮かんでいた。
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