第4章 虚構
夕飯が終われば、知盛は当たり前の様に亜弥の膝に横になった。
亜弥はと言えば着物を繕いながら、同じく当たり前の様に知盛を受け入れた。
そんな二人の様子を、望美はただただ眺めるしか出来ない。
「――知盛様。アレを亜弥様に、お渡ししなくて宜しいのですか?」
茶菓子を運んで来た硬牙が、眠りに付こうとする知盛に声を掛ける。
「ん――?あぁ、そうだったな。」
「まぁ、何ですか?」
起き上がった知盛に、亜弥は期待の眼差しを向ける。
「――やる。市を通ったら見付けた。土産だ。」
着物の袖口から、包装も何もしていない簪を徐に取り出す。
亜弥はそれを嬉しそうに受け取った。
「――コレを私に?買って下さったのですか?」
「お前以外に、誰に買うんだ?」
「――亜依とか?」
簪を瑠璃に付けて貰いながら、亜弥が悪戯気味に答える。
「ク――。違いない。アレにも何か買って帰らねば、な。」
苦笑する知盛の目は酷く優しく、望美はそのまま倒れてしまいたかった。
第27夜~酔狂な鬱蝉~
今まで彼の傍らには、自分以外の女はいなかった。
だから望美は、彼に恋をした。
なのに。
今は亜弥が、隣で微笑んでいる。
それは望美に取って、受け入れ難い事実だった。
「出来ましたわ!知盛様、いかがですか?」
簪を付け終えた瑠璃が、誇らしそうに知盛に声を掛ける。
「――思った通りだな。お前には、朱が良く映える。」
満足そうに言えば、亜弥の髪を一筋取りそして口付けた。
「有難うございます。大事にしますね。」
亜弥は僅かに頬を紅潮させながら、簪を撫でた。
「――私、帰る!」
突然、望美が立ち上がる。
「は?あ、おい!望美!送って行くぜ!」
慌てて将臣が立ち上がるが、望美は頭を振った。
「良いから!――じゃあ、お休みなさい!」
亜弥には視線をくれずに、そう言えばバタバタと部屋を後にした。
残された亜弥や将臣は、呆然と望美の後姿を見ていた。
唯一人、知盛の口元にだけは笑みが浮かんでいた。