第4章 虚構
「遅くねぇか?知盛の奴――。」
「そうねぇ。すぐに戻ると仰っていたのに。」
既に日も暮れて尚戻らぬ知盛に、将臣と亜弥は困っていた。
「なぁ、亜弥。もう食って良いだろ?俺、腹ペコなんだよ。」
知盛が帰って来ない為、将臣は夕飯のお預けを喰らっていた。
「――仕方無いわねぇ。」
亜弥が御飯を装うとした瞬間、瑠璃が咳き込んで入って来る。
「亜弥様!還内府様!知盛様がお戻りになられました!」
「あら。噂をすれば、ね?」
「遅ェよ、あのバカ――。」
クスクスと笑いながら玄関に向かう二人を、瑠璃は複雑な表情で見ていた。
第26夜~鋏を壊したのは僕じゃない~
「知盛様。お帰りなさいませ。」
「あぁ。遅くなった。」
亜弥が出迎えれば、知盛の表情が僅かに明るくなる。
そんなかつて見た事の無い彼の様子を、望美は呆然と見つめていた。
「――亜弥、ちゃん?」
「え――?望美?」
名前を呼ばれるまで気付いていなかったのか、亜弥は驚いて顔を上げる。
「望美だって?!何でお前がここに?!」
亜弥の後ろから現われた将臣は、望美と知盛を交互に見つめていた。
「雨宿りをしていたら、偶然会ってな。還内府殿をご所望との事だったので、お連れしたまでだ。」
珍しく饒舌に語りながら、知盛は羽織りを亜弥に渡している。
その様子はどこからどう見ても夫婦そのもので、望美の脳裏には考えたく無い事実だった。
「な――、んで。亜弥ちゃんが――?」
愕然としながらも言葉を紡ぐ望美に、将臣が声を掛ける。
「まぁ、来たモンはしょうがねぇな。上がれよ。」
「うん――。」
先に部屋へと姿を消した二人を見ながら、望美は部屋へと上がった。
広間に入れば、瑠璃と亜弥が忙しなく夕飯の準備をしていた。
「望美!お腹、空いてるでしょ?夕飯、食べる?」
「あ、うん。有難う、亜弥ちゃん――。」
望美の答えに頷けば、亜弥は一人分多くの夕飯を用意した。
そのまま四人は、奇妙な食卓を囲んだ。
最も知盛と将臣だけは、いつも通り御飯を掻き込んでいたが。