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鏡花水月【遥かなる時空の中で3】

第4章 虚構


知盛の声に反応して現われたのは、まだ歳若い美少年だった。

「申し訳ございません。傘を探すのに、手間取ってしまいました。」
「ふん――。お前ともあろう者が、珍しい事もあるものだな。硬牙。」

硬牙と呼ばれた少年は、慣れた手付きで知盛の側に寄り傘を広げた。
そんな様子を、望美は目を丸くして見ていた。
彼は今までの運命で、一度も誰かを側になど置いていなかった。

「知盛様――。こちらの方は?」
「あぁ。源氏の神子殿、だそうだ。」

硬牙が望美に視線を向けるが、その視線は好意的な物では無かった。
望美は思わず、身震いしてしまう。

「――左様でございますか。」
「戻るぞ、硬牙。遅くなっては、アレが心配する。」

知盛の言葉に頷けば、硬牙は知盛の頭上に傘を差す。

「あ、待って!知盛!将臣くんと一緒なんでしょ?!」

望美の言葉に、知盛はピタリと止まる。

「――神子殿は、有川をご存知なのか?」
「うん。今は平家の還内府、だよね?」

臆する事無く答える望美に、知盛は少しだけ何かを考え込む。

「――着いて来い。有川に会わせてやろう。」

それだけ言えば、知盛はスタスタと歩き出した。

「あ、知盛!」

望美は慌てて、二人の後を追った。





第25夜~本日運命予定日~





しばらく歩けば、市が見えて来る。
知盛は市を歩きながら、何かを探していた。
今までの運命でこんな事をする知盛を見た事が無かった為、望美は不思議で仕方が無い。

「――知盛?何か探してるの?」
「いや――。あぁ、これがいいな。アレの黒髪に良く映えるだろう。――硬牙。どちらが良い?」

生返事を返していた知盛が、ふと店先で立ち止まる。
手には女物の簪が、握られていた。

「――そうでございますね。こちら、では無いでしょうか?」

知盛の手には朱色と藍色の簪が握られており、硬牙は迷わず朱色を指差した。

「ク――。やはりアレは、朱が似合うか。――主人、コレを貰おう。」

知盛は朱色の簪を主人に渡せば、それを購入した。
望美は、そんな彼を呆然と見ていた。
考えたくは無かったが、明らかに誰かに対する贈り物だった。
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