第4章 虚構
知盛の声に反応して現われたのは、まだ歳若い美少年だった。
「申し訳ございません。傘を探すのに、手間取ってしまいました。」
「ふん――。お前ともあろう者が、珍しい事もあるものだな。硬牙。」
硬牙と呼ばれた少年は、慣れた手付きで知盛の側に寄り傘を広げた。
そんな様子を、望美は目を丸くして見ていた。
彼は今までの運命で、一度も誰かを側になど置いていなかった。
「知盛様――。こちらの方は?」
「あぁ。源氏の神子殿、だそうだ。」
硬牙が望美に視線を向けるが、その視線は好意的な物では無かった。
望美は思わず、身震いしてしまう。
「――左様でございますか。」
「戻るぞ、硬牙。遅くなっては、アレが心配する。」
知盛の言葉に頷けば、硬牙は知盛の頭上に傘を差す。
「あ、待って!知盛!将臣くんと一緒なんでしょ?!」
望美の言葉に、知盛はピタリと止まる。
「――神子殿は、有川をご存知なのか?」
「うん。今は平家の還内府、だよね?」
臆する事無く答える望美に、知盛は少しだけ何かを考え込む。
「――着いて来い。有川に会わせてやろう。」
それだけ言えば、知盛はスタスタと歩き出した。
「あ、知盛!」
望美は慌てて、二人の後を追った。
第25夜~本日運命予定日~
しばらく歩けば、市が見えて来る。
知盛は市を歩きながら、何かを探していた。
今までの運命でこんな事をする知盛を見た事が無かった為、望美は不思議で仕方が無い。
「――知盛?何か探してるの?」
「いや――。あぁ、これがいいな。アレの黒髪に良く映えるだろう。――硬牙。どちらが良い?」
生返事を返していた知盛が、ふと店先で立ち止まる。
手には女物の簪が、握られていた。
「――そうでございますね。こちら、では無いでしょうか?」
知盛の手には朱色と藍色の簪が握られており、硬牙は迷わず朱色を指差した。
「ク――。やはりアレは、朱が似合うか。――主人、コレを貰おう。」
知盛は朱色の簪を主人に渡せば、それを購入した。
望美は、そんな彼を呆然と見ていた。
考えたくは無かったが、明らかに誰かに対する贈り物だった。