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鏡花水月【遥かなる時空の中で3】

第4章 虚構


熊野に着いて、数日が経った。
将臣はバタバタと忙しなく走り回っていたが、亜弥と知盛は穏やかに日々を送っていた。

「――亜弥。少し出て来るぞ。」

夕方。
涼しくなったと同時に、知盛が呟く。

「え?あ、はい。行ってらっしゃいませ。」
「すぐに戻る。良い子にしていろ。」

何も聞かない亜弥に口角を上げれば、深く口付けてから硬牙を伴って部屋を後にした。







第24夜~道化の滑稽死~







「知盛様――?どちらへ?」

連れ立って出掛けた硬牙は、前を目的無く歩く主に問う。

「さて――。何と会うやら――。」
「――?」

くつくつと何かを楽しそうに待つ知盛を、硬牙は不思議そうに見ていた。
しばらく街を見ていれば、やがて夕立ちが落ち始めた。

「――雨、か。」
「すぐに、傘をお持ち致します!」

迅速に対応する硬牙に、知盛は不敵に笑いながら木陰へと避難する。
そこには、先客がいた。

「――珍客現る、か。」
「知盛?――やっと会えた。」

そこにいた女に、知盛の見覚えは無い。
けれど彼女は、確かに自分を見て涙を流した。

「――俺の事を知っているのか?」
「知ってるよ。平家の武将・平知盛、でしょ?」
「ほう――。」

女は、春日望美と名乗った。
巷で噂になっている、源氏の神子だと自ら暴露した。

「お前が神子殿――、ね。」
「――?」

今までの運命なら異常なまでに、自分に執着を見せていた知盛が何故かそれを見せない。
望美は何かが違うと、思い始めていた。

「――遅いぞ。」

ふと、知盛が声を荒げる。
望美は慌てて、後ろを振り返った。
この場面で誰かが現われる等、今までの運命では有り得なかった。
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