第4章 虚構
熊野に着いて、数日が経った。
将臣はバタバタと忙しなく走り回っていたが、亜弥と知盛は穏やかに日々を送っていた。
「――亜弥。少し出て来るぞ。」
夕方。
涼しくなったと同時に、知盛が呟く。
「え?あ、はい。行ってらっしゃいませ。」
「すぐに戻る。良い子にしていろ。」
何も聞かない亜弥に口角を上げれば、深く口付けてから硬牙を伴って部屋を後にした。
第24夜~道化の滑稽死~
「知盛様――?どちらへ?」
連れ立って出掛けた硬牙は、前を目的無く歩く主に問う。
「さて――。何と会うやら――。」
「――?」
くつくつと何かを楽しそうに待つ知盛を、硬牙は不思議そうに見ていた。
しばらく街を見ていれば、やがて夕立ちが落ち始めた。
「――雨、か。」
「すぐに、傘をお持ち致します!」
迅速に対応する硬牙に、知盛は不敵に笑いながら木陰へと避難する。
そこには、先客がいた。
「――珍客現る、か。」
「知盛?――やっと会えた。」
そこにいた女に、知盛の見覚えは無い。
けれど彼女は、確かに自分を見て涙を流した。
「――俺の事を知っているのか?」
「知ってるよ。平家の武将・平知盛、でしょ?」
「ほう――。」
女は、春日望美と名乗った。
巷で噂になっている、源氏の神子だと自ら暴露した。
「お前が神子殿――、ね。」
「――?」
今までの運命なら異常なまでに、自分に執着を見せていた知盛が何故かそれを見せない。
望美は何かが違うと、思い始めていた。
「――遅いぞ。」
ふと、知盛が声を荒げる。
望美は慌てて、後ろを振り返った。
この場面で誰かが現われる等、今までの運命では有り得なかった。