第4章 虚構
三人は翌日、熊野に向かって出発した。
亜弥には無駄な事に思えたが、形式上は付き従うしか無かったのだ。
「――暑い。」
本来、夕方からしか活動しない知盛からは不満の声が漏れる。
「知盛様――。もう少しでございますから。」
亜弥は自分の手ぬぐいを取り出せば、知盛の汗を拭ってやる。
「亜弥様こそ、大丈夫でございますか?」
知盛の意向で、瑠璃と硬牙も同行していた。
「有難う、瑠璃。大丈夫よ。」
本当は暑さに倒れそうだったが、瑠璃の心配を拭う様に言った。
「――ッチ。おい、硬牙。後、どのぐらいか見て来い。」
「は――?しかし――、宜しいのですか?」
硬牙は頷きながらも、将臣を気に掛ける。
「構わん。早く行け。」
「――承知致しました。」
硬牙は一度頷くと、妖狐に戻って一気に山を駆け下りる。
そんな様子を見ていた将臣は、目を丸くした。
第23夜~耳を塞いでも心音が五月蝿い~
「――アイツ、え?」
驚きの目で知盛の方を見れば、意地悪く口角を上げていた。
「何だ。気が付かなかったのか?硬牙と瑠璃は、妖狐だぞ。」
「マジかよ?!瑠璃も?!」
将臣が瑠璃に視線を寄越せば、瑠璃はニッコリと微笑んだ。
「驚いたぜ。妖狐って、人間に従うものなのか?」
「我が奥方様に一目惚れしたらしいぜ。なぁ、瑠璃?」
木陰に亜弥を腰掛させながら、知盛が悪戯気味に言う。
「はい!亜弥様と知盛様は、私達に取って全てでございますから。」
何の躊躇いも無く言い放つ瑠璃に、将臣は口笛も吹く。
「知盛も、か?」
「はい。知盛様は我等妖狐にも、人間同様の待遇を取って下さっておりますわ。」
「瑠璃。余計な事を言うな。」
瑠璃を窘めれば、亜弥の横に腰を下ろした。
しばらく木陰で休憩していれば、人間の姿に戻った硬牙が水を持って戻って来る。
「お待たせ致しました。町はもうすぐでございますよ。それとお水をお持ちしましたので、皆様でどうぞ。」
硬牙の水を有難く受け取れば、三人は喉を潤した。