第4章 虚構
「義姉上。ご機嫌麗しく存じます。」
平家一行は京へと立ち戻り、戦の痛み分けを取り戻そうと画策していた。
「重衡様?お珍しいですわね。こちらに、来られるなど。」
花の手入れをしていた亜弥に、重衡が声を掛ける。
彼と知盛は本家で会う事が多く、知盛の自邸を訪れるのは珍しかった。
「たまには義姉上や、知章殿にもお会いしたかったので。兄上はご家族に、余り会わせて下さらないですからね。」
不服そうに言う重衡に、亜弥は笑う。
「まぁ!でも、重衡様?生憎と知章と亜依は、ここにはおりませんわ。御義父上様や帝と共に、有馬に避暑をしに行っていますのよ。」
亜弥が答えると、重衡は笑う。
「そうでしたか。でも義姉上にはお会い出来ましたから、良しとしましょう。」
「ふふ。恐れ入ります。」
重衡の言葉に、亜弥は苦笑いを零す。
二人はしばらく庭先に座って、話し込んでいた。
「失礼致します。亜弥様。重衡様。知盛様がお戻りになられました。還内府様も、ご一緒でとの事でございます。」
瑠璃が二人に声を掛ければ、重衡が目を丸くする。
第22夜~淑やかな嘘だった~
「兄上が還内府殿と、ですか?珍しい事もあるものですね、義姉上?」
どこか楽しそうに言う重衡に、亜弥は微笑みだけ返す。
「――本当に。では、参りましょうか?重衡様?」
「義姉上のお供なら、喜んで。」
妖艶なまでの微笑を浮かべて、亜弥に腕を差し出す。
彼と夫は顔こそ良く似ているものの、中身がここまで違うのかと亜弥は苦笑した。
「――重衡様?知盛様に斬られてしまいますわよ?」
困った様に苦笑いをすれば、亜弥は先を歩き出した。
二人が客間に行けば、重苦しい雰囲気が漂っていた。
「失礼致します。お帰りなさいませ、知盛様。」
「亜弥、か。――重衡?何でここにいる?」
亜弥に視線を寄越すも、後ろの重衡に眉根を細める。
「たまには義姉上と、親睦を深めたかったものですから。それより還内府殿まで、何かございましたか?」
知盛の視線を受け流せば、重衡は将臣に視線を向けた。
「あぁ、実は――。」
彼から告げられたのは、将臣・知盛・亜弥の熊野行きだった。