第3章 因果
数日を梶原邸で過ごし、亜弥と将臣は福原へと戻った。
そこでは既に、源氏との戦が始まる様子だった。
「――亜弥。お前はどうする?」
十六夜の月を肴に、酒を煽っていた知盛が言う。
「何がでございますか?」
知盛の側でお酌をしていた亜弥が、きょとんと問う。
「間もなく戦になるだろう。知章と亜依は、母上と共に逃がすがお前はどうする?」
その言葉に、亜弥の表情が険しくなる。
「私が共にと願えば、知盛様はお連れ下さいますか?」
「お前が望むならな。但し俺の側を離れぬと、約束するならだが。」
その言葉に、亜弥は姿勢を正す。
「お約束致します故――。どうか私も、お連れ下さいませ。知盛様の背中を、守りとうございます。」
亜弥が言うと、知盛は満足そうに口角を上げる。
「それでこそ、俺が求めた女だな。亜弥。もう一つ、約束しろ。俺の許可無く、死ぬ事は許さんぞ。」
知盛は亜弥の瞳を見据えると、厳しい口調で言い放つ。
「はい。知盛様も、どうかお約束下さいませ。どうか――。私を置いて死ぬ事だけは止めて下さいませ。死ぬ時は、私もお連れ下さると――。」
その言葉に知盛は、微かだが口角を上げると亜弥を組み敷いた。
「安心しろ、亜弥。俺が死ぬ時は、お前が何と言おうと一緒に連れて逝く。絶対にだ。」
言い切る知盛に、亜弥は笑顔を零した。
「はい。」
「亜弥――。愛している。」
「――はい。私も愛しています。」
二人は浮言の様に呟きながら、夜が明けるまで互いの身体を貪った。
第21夜~淫らな視線~
翌日。
平家は三草山へと、進軍した。
重衡は帝や時子・知章達を連れて、京へと戻った。
亜弥は最初の約束通り、知盛と三草山へと向かった。
戦は源氏軍の虚を付いた作戦で、平家の勝利に終わるかに見えた。
けれど直前で策を見破られ、両軍痛み分けとなったのだ。
そして、一つの事件が起こる。
平敦盛が戦中に、行方不明になったのだ。
八方手を尽くしたが、結局彼が見付かる事は無かった。
平家最大の痛手となったのは、明らかだった。