第3章 因果
一行は一先ず望美達が世話になっている、梶原邸へと足を伸ばした。
道中弁慶とヒノエが、亜弥の元に寄って来る。
「まさか、この様なところでお目に掛かるとはね。姫君。」
「僕も驚きましたよ、十六夜の君。いや。今は亜弥さんと、お呼びしましょうか?」
二人の言葉に、亜弥は苦笑いを零す。
「私も驚きましたわ。――弁慶殿。貴方が突然、いなくなって以来ですわね?」
「ふふ。申し訳有りません。」
悪びれない様子の弁慶に、亜弥は苦笑いを零す。
「それにしても、姫君。何故、こんな所にいるんだい?」
「お二人には隠しても、仕方が有りませんわね。還内府様のお供で、後白河院にお会いして来ましたの。」
ヒノエの問いにあっさりと答える亜弥に、二人は舌を巻く。
「平家も色々と、画策しているわけですか。」
「えぇ。弁慶殿もでしょ?熊野水軍は、源氏に付きますの?」
亜弥が問うと、ヒノエは意味有り気な笑みを浮かべる。
「さぁね。姫君なら、どうする?」
「――私なら、中立を保ちますわね。」
少し考えてから答える亜弥に、ヒノエは口笛を吹く。
第20夜~背中の爪痕すら艶やかなのに~
「へぇ。さすが、十六夜の姫君って所かな。」
「お褒めに、預かり光栄ですわ。」
「亜弥ちゃ~ん!何してんの?早く早くぅ!」
先を歩いていた望美が、亜弥に声を掛ける。
「今、行くわ!」
幼馴染の相変わらずの様子に、亜弥は苦笑する。
「――なぁ、弁慶。」
「何ですか、ヒノエ?」
望美の元に走り寄る亜弥を見ながら、ヒノエが口を開く。
「俺の記憶が正しかったら、姫君には御子がいたはずだよな?」
「えぇ。確かお二人、いらっしゃいましたね。ご主人は、平知盛殿でしたか。」
弁慶が淡々と答える。
ヒノエは、徐に口を開いた。
「そのこと――。神子殿は、知っているのか?」
「望美さんは、おそらく――。ご存知無いでしょうね。」
「こりゃ、面白い事になりそうだな。」
二人の呟きは、亜弥に聞こえる事は無かった。