第1章 邂逅
月が、欠けて行く。
その夜はどうにも月が騒いでいた。
誘われるままに足を向けた先で、その男は立ち止まる。
水面に映った月を見ながら、男は呟いた。
「――女。一人、か?」
「ここは、どこ?」
月の光を浴びて、少女が立ち上がる。
少女と言うのが、正しいのかは分からない。
月の光を浴びた彼女は、憂いを帯びているようで美しい。
けれどその存在は酷く不安定にも見えて、男は興味をそそられる。
「ここは、京。平家の屋敷だ。お前は、月から来たのか?」
「京の都?平家――。」
少女は男の声など聞いていないように、独り言のように呟く。
こちらを通り越してどこかを見る少女の瞳に酷く苛立った。
「――行く宛が無いのなら、共に来るか?」
男が手を差し伸べる。少女は戸惑った。
第1夜~鮮やかな夜を想い、おはよう~
「私はここに在っては、ならないものです。」
紡がれた彼女の言葉に、僅かばかり目を見張る。
だが口元に弧を描けば、男は笑った。
「だから、どうした?俺はお前が欲しい。」
男の言葉に、少女は驚いたように目を見開く。
「俺は平知盛と言う。お前は――?」
「――支倉亜弥。」
「そうか、亜弥。お前は俺に、仕える気があるか?」
知盛が妖艶に微笑む。
亜弥は控えめながらも、その手を取る。
「――知盛?」
「『様』だ。俺に仕えるのならな。」
知盛はそれだけ言うと、亜弥の手を取って歩き出す。
「――はい。知盛様。」
それは、偶然なのか必然なのか。
当人にも、分からなかった。
全ては月だけが見ていた物語。