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鏡花水月【遥かなる時空の中で3】

第1章 邂逅


月が、欠けて行く。
その夜はどうにも月が騒いでいた。
誘われるままに足を向けた先で、その男は立ち止まる。
水面に映った月を見ながら、男は呟いた。

「――女。一人、か?」
「ここは、どこ?」

月の光を浴びて、少女が立ち上がる。
少女と言うのが、正しいのかは分からない。
月の光を浴びた彼女は、憂いを帯びているようで美しい。
けれどその存在は酷く不安定にも見えて、男は興味をそそられる。

「ここは、京。平家の屋敷だ。お前は、月から来たのか?」
「京の都?平家――。」

少女は男の声など聞いていないように、独り言のように呟く。
こちらを通り越してどこかを見る少女の瞳に酷く苛立った。

「――行く宛が無いのなら、共に来るか?」


男が手を差し伸べる。少女は戸惑った。







第1夜~鮮やかな夜を想い、おはよう~







「私はここに在っては、ならないものです。」

紡がれた彼女の言葉に、僅かばかり目を見張る。
だが口元に弧を描けば、男は笑った。

「だから、どうした?俺はお前が欲しい。」

男の言葉に、少女は驚いたように目を見開く。

「俺は平知盛と言う。お前は――?」
「――支倉亜弥。」
「そうか、亜弥。お前は俺に、仕える気があるか?」

知盛が妖艶に微笑む。
亜弥は控えめながらも、その手を取る。

「――知盛?」
「『様』だ。俺に仕えるのならな。」

知盛はそれだけ言うと、亜弥の手を取って歩き出す。

「――はい。知盛様。」

それは、偶然なのか必然なのか。
当人にも、分からなかった。
全ては月だけが見ていた物語。
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