第3章 因果
「失礼致します。知盛様。還内府様がお出でになりました。お通ししてよろしいですか?」
知章も戻ってくると、知盛一家は遅めの朝食を取っていた。
「――義兄上が?朝から、ご苦労な事だな。――お通ししろ。」
硬牙はその言葉に頷くと、座敷を後にした。
「知盛様。私も?」
「――いや、いい。俺だけ行こう。」
知盛は味噌汁を一気に飲み干すと、還内府の待つ部屋へと向かった。
第17夜~灰色静寂に細雨~
「――おゥ!知盛!朝から、悪ィな。」
還内府とは、将臣の事であった。
亡くなった重盛が生き返ったと言う事で、名付けられたのだった。
「それで?こんな朝早くから、一体何の様だ?」
上座に座った知盛は、気怠るそうに肘掛に縋る。
「そう、怒るなよ。お前に頼みがあって来た。」
「俺に?」
丁度その時、硬牙が飲み物を持って現われる。
「亜弥を呼んでくれねぇか?一度に話した方が、面倒じゃなくて良いだろう。」
「――硬牙。亜弥を呼んで来い。」
「かしこまりました。」
硬牙は一礼すると、亜弥を呼ぶ為に部屋を後にする。
間もなく亜弥が、部屋に入って来た。
「失礼致します。知盛様。お呼びでしょうか?」
「あぁ。還内府殿が、お前を所望だ。」
その言葉を不思議に思いながらも、亜弥は知盛の横に座る。
「左様でございますか。これは、還内府様。お早うございます。」
二人は立場上、第3者がいる前では形式に嵌まった言葉遣いをした。
「あぁ、お早う。」
慣れてはいるものの、長年幼馴染として育って来た亜弥の様子に将臣は苦笑する。
「それで?いい加減、話してはどうだ?」
知盛はまだ眠いのか、あくびをしながら将臣に問う。
「あぁ。明日、俺は京へ発つ。」
「まぁ。京へ?また随分と、急ですわね。」
とうとう横になってしまった知盛を、膝枕しながら亜弥が言う。
そんな二人の様子を、将臣は再び苦笑しながら見ていた。
「あぁ。後白河院に会う。そこでだ。十六夜を同行させたい。」
その言葉に、寝転がった知盛の目が怪訝そうに開かれた。