第3章 因果
翌朝。
亜弥は瑠璃の声で、目を覚ました。
「きゃああ!亜依様、何をなさってお出でです?!」
「お早う、瑠璃。どうしたの?」
亜弥が御簾を上げて瑠璃に問うと、瑠璃は慌てて礼を取る。
「これは、亜弥様!お早うございます。申し訳ございません!起こしてしまいましたか?」
「いいのよ。亜依がどうかしたの?」
亜弥が打ち掛けを羽織ながら問うと、瑠璃は困った様に言う。
「――はい。それが――。」
瑠璃の声に誘われ、亜弥が目をやると見事に咲いた桜の木に愛娘が登っていた。
「――?!亜依!何をやっているの?!」
「あ、お母様!お早う~!」
娘の亜依は、既に3歳になっていた。
「お早うじゃ有りません!危ないでしょう?!降りなさい!」
「や~!」
「亜依!」
顔を青くして言う亜弥の元に、欠伸を噛み殺しながら知盛が起きて来る。
第16夜~爪先の赤も足先の闇も愛して愛して~
「――随分とお転婆に、育ったものだな。我が娘は。」
「あ、お父様ぁ!」
「知盛様!亜依を止めて下さいませ!」
亜弥が慌てて言うと、知盛は怠そうに腕を伸ばす。
「母上が困ってお出でだ。亜依、降りろ。」
「――はぁい。」
その言葉に亜依は大人しく頷くと、知盛の腕に抱かれる。
「亜依――。良かった。」
知盛の腕から亜依を渡され、亜弥は愛娘を抱き締める。
「知盛様――。亜弥様。申し訳ございません。私の監督不行き届きでございます。」
事の顛末を見守っていた瑠璃が、二人にひれ伏す。
「いいのよ、瑠璃。亜依!木に登ったりしてはいけません!」
「ゴメンなさぁい。お母様。」
母親に諭され、亜依はシュンとなる。
「それぐらいでいいだろう、亜弥。瑠璃!硬牙と知章は、どうした?」
姿が見えない息子の姿を、知盛は探した。
息子である知章は、既に5歳になっていた。
「兄上と知章様なら、お散歩に出られて降りますわ。間もなくお戻りになられるでしょう。」
その言葉に、知盛は頷いた。