第3章 因果
亜弥は知盛の腕の中で、静かに目を覚ました。
この時代、夫が妻の元へ通うのが一般的な結婚であった。
けれど知盛はそれを望まず、亜弥を自分の屋敷に住まわせた。
それどころか、寝室も一緒にしてしまったのだ。
当初は皆反対をしたが、今では誰もそれを咎めたりはしなかった。
「――まだ、朝じゃないのに。」
亜弥はまだ夜明け前だと言うのに、目が覚めた自分を不思議に思う。
この時代は街灯など無く、夜はひたすら真っ暗なのだ。
だからかも知れないが、夜中に目を覚ます事などこの6年一度も無かったのだ。
亜弥は知盛を起こさぬ様に、腕の中から抜け出すとまだ暗い庭に出て見る。
「――何かしら?」
ふと覚えた妙な胸騒ぎに、亜弥は月を見上げた。
今宵の月は少しだけ掛けていて、十六夜であった。
しばらく亜弥が月を見上げていると、突然後ろから腕が伸びて来る。
第15夜~初々しい濃紺を憶えていて~
「――きゃっ!知盛様?!」
「亜弥――。何をしている?」
知盛は亜弥を後ろから抱き締めると、耳元で囁く。
「すみません――。起こしてしまいましたか?」
亜弥はその腕に身体を委ねながら、静かに問う。
「お前がいないと、寒くて寝られんな。」
「ふふ。すみません。」
知盛は笑う亜弥に軽く口付けると、亜弥を抱きかかえた。
「――ん。知盛様?」
「寝直すぞ。まだ夜明けは遠い。」
「はい。」
亜弥は頷くと、大人しく知盛に抱かれた。
知盛は亜弥の額や唇に口付けながら、もう一度布団に入った。
「――知盛様?」
「何だ――?」
自分を抱き締めながら、眠りに付こうとする知盛に亜弥が呟く。
「ふふ――。愛しています、知盛様。」
そう言って自分の胸に擦り寄って来る亜弥を、知盛は愛おしそうに抱き締めた。
「――あぁ。俺もだ。寝るぞ、亜弥。」
「はい。お休みなさいませ。」
そうして今日も、静かに夜は更けて行く。