第2章 巡会
「それでは、お休みなさいませ。母上。行くぞ、十六夜。」
「あ、はい!御義母上様!お休みなさいませ!」
忙しなく出て行く息子夫婦を、時子は微笑ましく見送った。
その夜は、時子の機転で既に用意されていた寝室に通された。
久し振りに息子がいない事も有り、知盛は亜弥を抱いた。
亜弥はただ身を任せていたが、情事後眠った知盛に比べて眠れなかった。
そっと知盛の腕から抜け出すと、亜弥は夜の散歩に出た。
第12夜~左目が捕えた嘘について~
「――綺麗な十六夜ね。」
庭に出ると、哀しいくらいの十六夜の月が亜弥を照らしていた。
縁側に座ると、亜弥は静かに歌い始めた。
ふと歌を止めると、足音が聞こえるのに気付いた。
知盛かと思い振り向くと、そこには将臣がいた。
「相変わらず綺麗な声してんな。」
「そう?有難う。」
先程とは態度の違う亜弥に、将臣はほっと胸を撫で下ろす。
「――将臣。まさか将臣も、こっちに来ているなんてね。」
「それはこっちのセリフだ。お前がいなくなって、大騒ぎだったんだぞ。」
将臣は少し声を荒げながら、亜弥の隣に座る。
「ふふ。でしょうね。でも私がこの世界に来たのは、3年も前の話なのよ。」
「3年も?!」
驚いた将臣とは裏腹に、亜弥は綺麗な笑みを浮かべる。
「そう。その間に色々あったわ。知盛様に出会って、恋をして、子供が出来て、そして祝言も挙げた。ビックリよね?」
どこか人事の様に言う亜弥に、将臣は何も言えなくなった。
「お前――。マジで?」
「マジですよぉ?それにアレが冗談に見えたんなら、将臣は眼科行った方がイイわよ?」
ふざける亜弥は幼馴染の亜弥のままなのに、『十六夜』と呼ばれる亜弥は別人だった。
「望美と譲も、どっかにいるはずなんだ。」
ふと真剣に言う将臣に、亜弥も視線を落とした。
「――そう。無事に、会えるといいわね。」
それだけ言うと亜弥はもう一度、歌を紡ぎ始めた。
そんな二人の様子を、知盛は物陰からじっと見つめていた。