第2章 巡会
「知章殿には退屈でしたね。こちらにいらっしゃい。美味しいお菓子を上げましょう。」
「母上――。十六夜。お前も一緒に行っていろ。」
「かしこまりました。では、失礼致します。」
退室する亜弥と知章を、将臣は呆然と見送っていた。
「――お前が、平知盛なのか…?」
突然不躾な質問を浴びせられ、知盛は僅かだが眉根を寄せる。
「そうだが。」
「――亜弥は。本当に、お前の妻なのか?」
その問いに、知盛は確信する。
この男、亜弥に惚れているのか。
「――だとしたら、どうする?」
知盛の勝ち誇った微笑に、将臣は殴りたい衝動に駆られる。
「そこまでですよ、兄上。義姉上と知章殿が、お待ちでしょう?」
慌てた重衡が間に入ると、知盛は僅かに醸し出していた殺気を収める。
「――ク。そう、だな。我が愛しの奥方を、迎えに行って来るとしよう。」
その言い方は酷く耳障りに聞こえ、将臣は耳をそぎ落としたくなる。
知盛はそれを知ってか知らずか、笑い声だけを残して去って行った。
「――面白くなりそうだな。」
知盛は母の部屋に向かいながら、月に呟いた。
第11夜~美しい朝を夢見て、おやすみなさい~
「母上。失礼致しますよ。」
「おや、知盛殿。十六夜殿。知盛殿が参られましたよ。」
時子の言葉に、亜弥が慌てて知盛の方に来る。
「知盛様!先程は、申し訳有りませんでした。」
頭を下げる亜弥に、知盛は笑う。
「別に良いさ。それより、知章は?」
「あ――。それが知章は、寝てしまいましたの――。」
亜弥が指を差す先には、打ち掛けを羽織り寝ている息子がいた。
「全く。どこでも、寝れる奴だな。」
「知盛殿に似て、ね。そういう事です。今夜は、泊まってお行きなさい。」
悪戯気味に言う時子に、知盛はため息をつく。
「――母上もお人が悪い。こうなる事を、読んでおられましたな?」
「さぁ?どうでしょうね。」
そんな様子を亜弥は、一歩引いて見ていた。
「仕方が有りませんな。では、母上。知章の事を、よろしくお願い致します。」
「はい。この母を、信用なさい。」
その言葉に知盛は口角を上げると、亜弥の腕を引っ張った。