第2章 巡会
「――さて。父上。コレは異な事ですな。」
知盛が面白そうに、将臣を値踏みする。
「どことなく重盛兄上に、似ている様な気がしないでも有りませんが。こやつは何者です?我が妻を、知っているとお見受けしますが。」
知盛の言葉に反応したのは、清盛では無く将臣だった。
「妻って――、え?」
「アレは、俺の妻だ。」
知盛は余裕に満ちた笑みで、将臣に告げる。
将臣が亜弥を見るが、亜弥の視線はこちらに向いてはいなかった。
第10夜~独り歩きの闇夜~
「知盛。そのくらいにしておけ。十六夜と将臣が顔見知りだったとは、我も初めて知ったのだ。そうなのだな?十六夜。」
清盛が亜弥に答えを促すと、亜弥は知盛の顔色を伺う。
彼の顔が頷いたのを確認して、亜弥はようやく将臣に視線を戻す。
「はい。彼――、有川将臣殿とは同郷ですので――。まさかこの様な席で再会するなど、思ってもいませんでしたので、取り乱してしまいました。申し訳有りません。」
清盛にと言うよりは、知盛に対して謝罪を述べる。
将臣はつい最近まで焦がれていたはずの亜弥が、大人っぽくなっているのに声を失った。
「そうであったか。それはさぞ積もる話も、あるであろうな。」
清盛は知盛を挑発する様に、十六夜に声を掛ける。
「――父上。お戯れは、止めて頂きたい。」
いつも余裕綽綽の知盛の苛立ちに、平家一門は目を見張る。
彼は皆が思っているよりずっと、亜弥の事を大事にしているのが伝わって来る。
「そう、怒るな。皆の者。我は有川将臣を、我が息子として引き取る事にした。」
清盛の発言に、平家一門にどよめきが走る。
そんな中知盛だけが、複雑そうな笑みを浮かべていた。
「――よろしく。」
将臣はどよめきにも動じず、笑いながら言い放った。
「母上。お腹、空いた。」
いつの間にか亜弥の横に来ていた、知章の言葉に平家一門は笑いに包まれる。
「――知章ったら!皆様、申し訳有りません――。」
亜弥が顔を真っ赤にして謝ると、時子が温かい笑みを浮かべる。