第5章 「まだ届かない・・・」
明け方、太輔の家に帰ってベッドに入りおぼろげに考えていた
母親が男作って家を出て行って、父親だけでは太輔を育てられなくて。
それで親戚をたらい回しにされたって
前に普段自分の事を話さない太輔が酔って言ってた。
そのせいなのかな?太輔が自分に対してどれだけ愛情があるか計るみたいなこと言うのは
母親みたいに自分を、ある日突然捨てて去ってしまうのが怖くて
きっと、こうやって、たまに無茶なことを言うんだ・・・
前にも店で・・・
「みつ?今日、客がかさなっててさぁ。あの客。お前が相手してやってくんない?」
「えっ?ヘルプ?」
「違うよ、アフターだよ」
「え・・・それって」
「あの客は俺じゃなくてもいいんだよ、お前のこと気に入ってるし。もう話しつけといたからさ」
「話し?・・・・・・寝ろってこと?俺に、あの客と寝ろって?」
「無理ならいいけど」
そんな時、無茶なこと言ってるのは太輔の方なのに、悲しそうな子供みたいな目をするんだ。
太輔ならそんな客、あしらうことなんか簡単なはずなのに
俺を試すためにわざと言ってた
俺も片親で、太輔の気持ちもわからなくもなかったし
何より愛してる。
太輔と、太輔に言われたことを天秤にかけて
どんな事を言われても、太輔に従って忠実に愛情を注いで来た
今回も同じだ
まさか、死ねって言われるとは思わなかったけど・・・・・・
でも、あの時の太輔の目は
「お前、俺のために死ねるのかよ?」ってそう言ってた
太輔、俺はもうお前しかいないんだよ。唯一大切な人だって分かってるくせに。
まだ足りないの?まだ、信じてくんないの?母親みたいに俺が逃げ出すと思ってんの?
太輔にとって、俺って一体なんなの?
「みつ?何泣いてんの?俺に嫌気がさした?」
気がついたら涙が流れてた
「違うよ」
「いいんだぞ?俺なんかといなくたって。俺はお前を幸せにしてやれるような人間じゃないんだから。お前だっていい加減わかってんだろ?」
「なんでだよ・・・・・・。俺は、俺は太輔といて幸せだよ」
太輔は小さくため息をついて俺を抱きしめた
「わかったよ、もういいよ。お前バカだな」
優しい太輔の声で、俺は涙の止め方がわからなくなった。