第9章 「敵意」
裕太の客は結局、そのまま帰って行くことになって。
「ちぇっ、もう少しだったのに」
「裕太、太輔と勝負しちゃだめだよ。太輔は化け物みたいな客が沢山いるんだから」
宏光が悔しがっている裕太に声を掛けた。
「なに?俺が化け物?」
後ろから声が飛んできた。
「うわっ!!まただよ。ビックリしたなー。太輔が化け物なんて言ってないよ」
「あはは・・・・・・解ってるよ。裕太、お前あの客とアフター行くつもりだっただろう?止めろって言わなかったか?」
「だって、今日は、締めだったし。一回位いいじゃないですかっ」
ムキになって言った。
「ふっ、お前男とできんの?」
「はっ?」
「あの客、もともと俺の客だったんだよ。俺が断ったから恨んでたんだろ?張り合ってきたりして。お前ねぇ、客がみんなノーマルだと思ったら大間違いなんだよ。
あの客は自分とするんじゃなくて、男同士させて、それを見るのが趣味なの!!
だからお前には無理だって言っただろ?」
そう、吐き捨てて待っている客の所に戻っていった。
「なんだよそれ……嘘だろ」
「俺ね太輔のあんな所好きなんだよね」
「え?」
「今の話しホントだよ?前にあの客は危ないから近寄るなって言われたことあるもん。太輔、今日あの客と張り合ったの裕太のためだと思うよ」
「なんで、そんな事」
「解んない。気まぐれだから、太輔は。でも、裕太の事気に入ってんじゃない?俺は……嫌だけどね」
何だよ、一瞬でも勝てるかもって思ったのに、実は足元にも及ばなかった
しかも、俺のために?
やっぱり解んねー。昨日のキスといい、今日の勝負といい。
あいつは一体何がしたいんだよ。
苛立って、廊下の壁を蹴飛ばした。