第9章 「敵意」
それを冷やかな目で見つめていた太輔が動いた。
「ねぇ、山田さん。俺、今日でナンバー1じゃなくなっちゃうみたいよ」
「え?もしかしてあそこの席の子?ルイ入れたから?」
「うん」
悲しそうな顔をして客の手を取り自分の膝の上に乗せて、頷いた
「俺がナンバー1じゃなくなっても捨てないでね」
「もう、そんな悲しそうな顔しないの。何入れれば勝てるの?」
伊達にトップを張ってきたホストではない。
「山田さん。俺、ドンペリ飲みたいなぁ。金色のやつ」
「いいわよ」
握った手に力を入れて、ありがとうと小さく耳元で囁くと、目配せで宏光を呼んだ。
宏光は太輔の口元に耳を寄せ用件を聞くと
「はい!!ドンペリゴールド入りますっ!!」
と叫んだ
そしてまた、太輔の席に従業員が集まりコールが始まる
コールが終わったらまたすぐに従業員が動き出して、裕太の客のシャンパンタワーを作り始めた。
「はぁ、山田さん、あっちはどうしても俺を抜きたいみたいだね?」
「タワー?太輔……」
「いいよ、もう山田さんには甘えられないから、気にしないで、ありがとう。ちょっと席離れるけど浮気しないでいい子にしててね」
山田さんも今日は50万は使ってる。
この客からはこれが精一杯だろう。本命は……あの客。
先ほどから太輔を待っている席に近寄っていく。