第4章 せんこう、がんこう【前編】
「悪ぃな。肩が上手く降ろせなくて…」
最もらしい言い訳を見つけてみるけれど、赤葦にはそれが嘘だと知れていたらしい。
「そんな言い訳はいいです。何かあったんですか」
少し、赤葦の声が低くなった。
それは彼の――機嫌が悪くなるカウントが始まる合図。
今の木兎には、この状況を切り抜ける術がない。
……気持ちを伝えること、以外は。
だけど、言わない。
赤葦を困らせるわけにはいかない。
俺は、赤葦のトスが打てればそれでいい。春高で勝って、全国優勝して、それがいい思い出になって。
この気持ちも―――“ただの勘違い”で終わればいい。
「……なにも、ねぇよ」
「そんな嘘、俺に通用すると思ってるんですか」
「なにもねぇって」
どうすればいい。
言いたくない。
言ってはいけない。
だけど多分、言わないと赤葦はこれ以上に機嫌が悪くなるだろう。
でも、言って困らせるくらいなら黙っていた方が……
ぐるぐると木兎の頭を巡るその思考は、もうパンク寸前だった。
言わないと決めたけれど。
赤葦には、嫌われたくない。