第1章 貴方って人は。
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練習が終わり、部員のほとんどが帰ってしまっても、この人と俺だけは毎回部室に残っている。
「赤葦ぃー。これなんて書けばいいー?」
部室の真ん中に置いてある長い椅子を机代わりにして、木兎は部誌を広げウンウンと唸っていた。
「今日の練習メニューです。何したか振り返って書いてください」
主将の仕事も、たまに自分が無理やり頼まれてやらされているから、赤葦はそういう事もそつなくこなせる。
だけど毎回、今日の練習メニューを部誌に記入するだけで何故こんなに時間がかかるのか。
「えぇ、わっかんねー。今日何した?覚えてる木葉」
「木葉さんもう帰りましたよ」
そう言う赤葦の言葉に、げっまじか!?とあからさまに落胆する木兎。
毎回遅くなる原因は、木兎が練習メニューを覚えていない事と、その誤字・脱字がひどすぎて、赤葦が逐一指摘して直しているからであった。
「木兎さん、またここ…線が1本足りてないです」
「え?!どれ!?」
自分がやった方が絶対に早く終わる。
その事も赤葦は分かっている。だけどこれはあくまで主将の仕事であり、自分は副主将の立場で、あえて木兎を手伝うポジションについていた。
こうやって過ごす時間も、赤葦にとっては大切な時間だった。