第3章 君心地、春心地。
「お前、名前は?」
「え」
後ろにまだ人がいるにも関わらず、木兎は赤葦に問いかける。
おそるおそる、「赤葦です…」と苗字だけを言った。するとすかさず木兎は「フルネーム!」と腰に手を当てて仁王立ちをする。
「赤葦京治、です」
―――なんで、今。
そう思ったが、名前を聞いた途端に木兎は「赤葦な!よろしく!」なんて言ってボール拾いに行くもんだから、赤葦は脱力してしまった。
だけどさっき見たスパイクは、『木兎光太郎』が只者ではないことの証明だった。
赤葦は、あんな綺麗なフォームでスパイクを打つ選手を今まで見たことがないのだ―――そして、あの捌かれたボールのキレ。
………忘れるわけがない。
忘れられるはずがない。
「木兎、さん……か」
赤葦はぼそっとその名を呟くと、ふっと笑いを零して、スパイク練習を再開した。