第3章 君心地、春心地。
赤葦も、先輩に声をかけられボールを持ってコートへ入ろうとした。
―――その時。
「こらああ木兎!!また遅刻だっつってんだコラ!!」
……木兎?
赤葦の脳内に、その名前が響く。
「まじすんません!!午後の授業ずっと寝てたんすよおおお!!」
全て逆立ったグレーの髪と、まん丸い琥珀色の目。身長はそこそこあるけれど、主将よりはまだ低い。
両手を前で揃え、「ごめんなさい」のポーズをするその先輩は、主将にランニングを強要され、しょぼくれた様子で部室へと去っていった。
「ったくアイツは…」と呆れ顔の主将に、赤葦は声をかける。
「今の人、誰ですか?」
いつもなら“馬鹿な人もいるもんだ”と心の中で思うだけの赤葦だが、あの人のことは何故か気になる。……というか、聞いてみたくなった。