第3章 自由とは愚かなり。
『アルスラーン様は貴重な体験をしたのですね…』
「確かにあれは貴重だった。それに あの捕虜の者の話はとても興味深かったのだ」
『どんな話だったんですか?』
私が小首を傾げながら問いかけると アルスラーン様はとても懐かしそうに笑みを浮かべた。まるで その時のことを1つ1つ思い出しているかのように。
「…あの者はこう言ったのだ。人は皆 平等だと」
『平等?』
「ああ。エクバターナに奴隷が多いのは 国が豊かだという証拠でもある。奴隷になれば食べるのに困ることなどない。だがあの者は奴隷になることを拒んだのだ。共にいた仲間たちも」
『…拒んだ者たちは どうなったのですか?』
「殺された」
『…っ!?』
殺された?どうして?奴隷になるのを拒んだから?たったそれだけで 尊い命が奪われてしまったの…?
「私には分からないのだ。素直に奴隷になっていれば 命を落とさなかったというのに なぜ拒むのか…」
アルスラーン様は何も分かっていないのね。奴隷になることがどれだけ辛いのかを。でも それも仕方ないのかもしれないわ。私も王子も 奴隷になるかもしれないという恐怖がないんだもの。
こればかりは価値観の違い。私にはアルスラーン様の疑問の答えを言うことは出来ない。