第2章 行く手を阻むもの
うんうんと一人考え込んでいると、不意に前から声を掛けられた。
「優衣ちゃん、大丈夫?疲れてない?」
「えっ、あ、はい、大丈夫です」
慌ててそう返すと、シロノは「そっか」と言った後に少し思案するように黙り込む。
「…シロノさん?」
どうしたのだろうとシロノを見上げると、彼はくるりとこちらを振り返った。
「ねぇ、優衣ちゃん。気になってたんだけど、僕に敬語なんて使わなくていいんだよ?名前も、出来ればシロノって呼んで欲しいな。…ダメかな?」
「え?えっと、ダメって訳じゃ…」
ただ今までは、見た感じ彼の方が年上だと思って敬語を使っていただけだ。
本人が良いと言うなら特に断る理由はないが、なんとなく気恥しい。
でもそれを躊躇していると、シロノが何処か寂しそうな顔をするので、私は彼の要求を飲む事にした。
「…うん、わかったよ。シロノ」
私がそう言うと、シロノは花でも咲きそうな勢いで表情が明るくなった。…表情、というか雰囲気だけど。
「うん、やっぱりその方が落ち着くよ」
「…?変なの」
その言い方に少し違和感を覚えたけれど、シロノが屈託なく笑みを浮かべるものだから、あまり気にしなかった。
再び廊下を歩き出し、私は気になっていたことを聞いてみた。
「ねぇ、シロノはどうしてあそこにいたの?」
まさかここに住んでいる訳ではないだろう。
だとすると、シロノもここに連れてこられたのか、あるいは迷い込んでしまったのか。
私の質問に、シロノは少し間を開けて静かに答えた。
「……探し物をしてるんだ」
「…探し物?」
シロノはこくりと頷いて話を続ける。
「うん。大切な人から貰った、とても大事な物なんだ」
そう話す声は何処か切なそうで、それでいてとても愛おしげだった。今彼に目があったなら、どんな表情をしていたのだろう。
なんだか私まで胸が苦しくなってしまう。
「…そんな大事な物を探してるのに、私と出口なんて探してていいの?」
「勿論、大丈夫だよ。
それがここにあるのは確かだし、それにここから出る方法を探していれば、必ず僕の探している物に行き着くはずだからね」
「…?そっか」
よく分からなかったが、出口を探す事は彼の探し物を見付けることに繋がるという事なのだろうか。