第2章 行く手を阻むもの
「……ぁ…」
頭がぼーっとする。まるで夢から覚めた時のような倦怠感が体を襲う。
「優衣ちゃん?大丈夫?」
幼い子をあやすように背中をぽんぽんと叩かれ、私はハッと我に帰った。
私今、抱き締められてる!?
「は、ははは離して下さいっ!!」
シロノの腕の中で暴れると、「もう大丈夫そうだね」と意外と簡単に離してれた。
彼はただ私を心配してくれていただけなのだろうけど、男の人に抱き締められるというのはどうにも慣れていない。
私はばくばくとうるさい心臓を押さえながら、目の前に差し出されたシロノの手を借りて立ち上がった。
「すみません…、もう大丈夫です」
「うん、なら良かった」
にこりと口元に笑みを浮かべるシロノを見て、私も小さく笑みを零す。
さっきまであれ程恐怖に埋め尽くされていた心が、今では大分落ち着きを取り戻していた。
「じゃあ行こうか?」
私はその言葉に「はい」と頷いて、横目に壁を見やる。
“ニ ガ サ ナ イ”
べっとりと書かれた赤い文字。何度見ても気分の良いものじゃない。
これはあのぬいぐるみ達の言葉なのか、あるいは…私をここに連れてきた人物か。
どうして私をここに留めようとするのだろう。
疑問の答えはまだわからなかった。
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コツコツと、靴の音が静かな廊下に響く。
あれから暫く歩いているが、階段もなく、ただ部屋が沢山あるというだけで、特に別の場所へ続く様なものは見付からない。
沢山ある部屋を覗いて見ても、どこも同じ様な作りの部屋ばかりだった。
仕方なく、今はただ廊下の先を目指して歩いている。
赤い絨毯の敷かれた廊下は、壁に等間隔に火の灯った燭台が掛けられていて、さほど暗くはないが廊下の先は見えない。
「……」
なんとなく、私よりずっと背の高いシロノの背中を見た。
彼は何があるかわからないからって、少し前を歩いてくれている。
その背中で、シロノの白く長い髪が揺れているのをぼーっと眺めた。
シロノは髪が長く、それを後ろで縛っている。これは彼の後ろを歩き始めて初めて知ったこと。
まぁそれはいいとして、シロノは謎が多い。
一体何者なのか。どうしてここにいるのか。そもそも包帯で覆われたその目はちゃんと見えているのか…。