第2章 行く手を阻むもの
私は曖昧に返事を返して、ふとある事に気付く。
探し物をしにここにいるという事は、シロノはここに連れてこられた訳でも、迷い込んで来た訳でもなく、“自分から”ここに来たという事なのだろうか。
「ねぇ、シロノ。シロノは……」
どうやってここに来たの?
そう口にする前に、シロノが急に立ち止まった。
「シロノ?」
「廊下はここで終わりみたいだよ」
「えっ?」
シロノの言葉に前を見ると、他の部屋の扉より一回り大きな扉が道を塞いでいた。
「ホントだ…。この扉開くのかな…」
両開きの扉に近付いて試しに押してみるが、びくともしない。なら引くのかと思って引いてみたが、やはり扉は固く閉ざされたままだった。
「はぁっ、もう!全然開かない…!」
「優衣ちゃん、危ないよ?」
「え?なに……っ!?」
が、と言う前に、ぐいっと後ろに腕を引かれた。
それとほぼ同時に、ガチンッという鉄がぶつかり合うようなけたたましい音が響く。
「ほら、危ないね?」
「…はっ?え…?」
一瞬、何が起こったのか理解出来なかった。
いや、今も出来ない。
目の前の扉に……大きな口が付いているなんて。
『ったく、なに勝手に通ろうとしてんだよ。喰うぞ』
しかも喋った。
いや、そう言えばあのぬいぐるみ達も喋っていた気がする。
ここではどんな物も喋るのだろうか。
というか、喰う?喰うって言った?じゃあさっきの音は私を食べようとして…?
シロノに腕を引かれなかったら私食べられてたって事…?
「喰うぞって言う前に食べようとしたよね。危ないなぁ」
『うるせぇ!』
私が放心してる間に、シロノは悠長に扉と会話をしていた。
「優衣ちゃん、大丈夫?何処か痛い?」
「…う、ううん、だい、じょうぶ。ありがとう、シロノ…」
放心して動けないでいた私を心配そうに覗き込んできたシロノにそう言うと、口の付いた扉が反応した。
『シロノ?シロノってお前……余所者じゃねーか!
カーッ、ペッぺ!こっち来んな!』
「酷いなぁ、人を病原菌か何がみたいに言わないでよ」
ぺっぺと唾を吐く扉に、シロノは普通に笑顔で返しているけど、私は一人話に追い付けないでいた。