第4章 人形部屋の管理人
自分も人のことを言えない。
“あいつ”にばれたらどうなるのか。
もしかしたら二度と口が利けないようにされるかもななんて思い、扉は自嘲気味に笑った。
けど俺は“あいつ”の指図は受けない。俺は俺のしたいようにする。
例え破壊されようとその意思を曲げる気はない。
しかし、目の前にいるこの男は違う。
「なぁクロヴィス。
お前ならいつだってその引き金を引くことが出来たはずだ。なのにどうしてお前はそれをしなかった?
ここの連中はみーんな自分の欲に正直に生きてる。お前だって例外じゃない。本当は心のどっかで思ってんだろ?
あの女を…優衣を殺したくてたまらないってな」
ケラケラと笑い出す扉に、クロヴィスは僅かに眉根を寄せる。
そしてペンを取って手帳に文字を書いていくと、そのページを破って扉の顔面に貼り付けた。
「おい!?これじゃ見れねえじゃねーか!てめこらクロヴィス!!」
クロヴィスは扉の怒声を無視して踵を返し歩き出し、その背中はすぐに闇に飲まれて消えていった。
「くそ、あの陰湿のっぽ…。
…ま、あいつがどっちを選ぼうと俺には関係ねーか」
クロヴィスが優衣に望むのは解放か、それとも死か。
どちらでも興味はなかった。
誰もいなくなった空間に、また静けさが訪れる。
昼寝でもするか。どうせ誰も来ないだろう。
扉は一つ大きくあくびをして、ゆっくりと意識を沈めていった。
はらりと、扉に貼られた紙が床に落ちる。
【私は認めない】
その文字は誰に見られることもなく、何処からか微かに入り込んできた風にさらわれていった。