第2章 行く手を阻むもの
私を助けてくれた謎の男性、シロノと共にこの屋敷の出口を探す為に今までいた部屋を出た。
アレはいないとわかっていても、少し怖さが残っていて部屋を出る時に躊躇してしまったが、シロノが先に出て「大丈夫だよ」と私を手招きしてくれたおかげで、恐る恐るだが部屋から出る事が出来た。
何となく逃げて来た方を見る。私を追ってきていたアレはいない。
「……あれ…?」
ふと、違和感に気付く。
私達がいた部屋からほど近い所にある扉が開いていた。
逃げて来た時は何処も開いていなかったはず。どうして…?
怪訝に思っていると、背後からゆったりとした声がした。
「君が最初に出てきた部屋じゃないの?」
シロノだ。
私は彼の言葉に首を横に振る。
「そんなまさか。あの部屋からここまではもっと距離があったはずですし…」
私が逃げ出した部屋からここまで、こんなに近かったはずがないのは確かだ。
でもそれを確かめに行く勇気はない。あの部屋に入って、またアレがいたらと思うと足が竦んで体が震えた。
「怖いなら、そっちとは別の方へ行こうか」
その言葉に甘え、小さく頷いて振り返った瞬間、ベチャベチャと不快な音が耳をついた。
“ニ ガ サ ナ イ”
「ひ…ッ!?」
音の原因は、私のすぐ側の壁にあった。
血のような赤い液体で書かれていた文字。
私の喉から引き攣った悲鳴が上がった。
その後も、まるで激しい感情をぶつけるような字で同じ言葉が壁一面に書き殴られる。
「あ…、ぁ…い、いや…いやぁッ!!」
ベチャベチャと書き殴る音が耳をつく。
私は耳を塞いでしゃがみこんだ。何も見ないようにキツく目を瞑っても、赤い文字が瞼に焼き付いて離れない。頭の中でも、絶えずそれが書き殴られ続けている。
嫌だ。いやだ…!!
「やめっ、やめて…っ!」
「優衣ちゃん」
静かな声と共に、ふわりと体が温もりに包まれた。
「大丈夫、落ち着いて。怖くないよ」
「……っ」
耳を塞いでいるはずなのに、脳に浸透してくるような声。
不思議とあの嫌な音も、頭の中を埋め尽くしていた赤い文字も消えていた。
私は恐る恐る目を開ける。
耳を塞いでいた手が緩み、そこへ優しい声が囁く。
「ほら、もう怖くないね」