第1章 始まる悪夢
ドンドンドンドンッ!!
また、乱暴に扉を叩く音が聞こえてきて、びくりと肩が跳ねた。
その音は少しづつだが、確実にこちらに近付いている。
アレがすぐ近くまで来ている。
怖い…っ
私は思わず、口を塞いでいる手袋越しの手をぎゅっと握ると、ぽんぽんと優しく頭を撫でられた。
まるで「大丈夫。怖くないよ」と言うように。
やがて扉を叩く音が止んだ。この部屋の扉は叩かれていない。
諦めて行ったのだろうか?
少しホッとしていると、外から声が聞こえてきた。
『いナい、イナい。どウしテ?ドウシテ……』
それは、今にも泣き出してしまいそうな声だった。
だからといって部屋から出てあげる気にはなれなかったけれど、それがほんの少しだけ気になった。
「……行ったみたいだね」
暫くして本当になにも聞こえなくなると、私の口を塞いでいた手が離れた。
「もう大丈夫だよ」
その言葉に今度こそ安堵して、口から重いため息を吐き出す。
張り詰めた緊張から解放されて、膝から崩れ落ちそうになる体をドアに寄り掛かって支えていると、後ろから「頑張ったね」と優しく声を掛けられた。
そうだ、私はこの人に助けられたんだ。
もしもこの人がいなかったら、私はどうなっていたんだろう。
そう思うと背筋がぞくりと震えて、私は考えるのを止めた。
とにかく今は、助けて貰ったお礼を言おう。
「あの…っ!」
振り返ってその人を見た瞬間、私は息を詰まらせた。
燕尾服の様な格好に、雪の様に真っ白な髪。
そこまではまだ良かった。少し変わった人だなくらいで流せる。
しかし問題は顔。いや、目だ。
その人の両目は…包帯で覆われていた。
「?」
口を押さえて思わず出そうになった悲鳴を堪えると、その人は不思議そうに首を傾げる。
それから直ぐに、ああと何かに気付くと、自分の目の包帯を指差した。
「これ?ごめんね、ちょっと色々あって今はこうなってるんだけど…怖い?」
そう言う表情が少し寂しそうに見えて、私は慌てて首を横に振った。
「いや、違うんです!その、ちょっとびっくりしちゃって…ごめんなさい」
全く怖くないと言われれば嘘になるが、顔を見て驚かれるなんてその人からすれば不快だろう。
私が謝ると、その人はにこりと口元に笑みを浮かべた。