第1章 始まる悪夢
「いいよ、これじゃあ驚くのも無理ないからね。君に怖がられちゃうのは少し寂しいけど」
少し怖がっていたのは気付かれていたようだ。
申し訳なくてもう一度小さく謝ると、気にするなと首を振った。
「それより、追われていた際に怪我とかはしていない?大丈夫?」
「はい、大丈夫です…。あっ、あの、さっきは助けて頂いて、ありがとうございました」
この人の両目の包帯のことですっかり言いそびれてしまっていたお礼を言うと、その人の表情(雰囲気?)がフッと柔らくなる。
「ううん、君が無事で良かった」
とても、優しい声音だった。この人に目があったなら、きっとそれは優しく細められていただろう。
なんだか恥ずかしくなって、私は話を変えた。
「あの、ここは何処なんでしょうか?私、気が付いたらここにいて…」
そう言うと、その人…白髪の人は思案するように顎に手を当てて首を傾げとんでもない事を言った。
「うーん…。ここは夢と現実の狭間みたいな場所だからねぇ…何処かって言われると…」
「えっ?ちょ、ちょっと待って下さい!夢と現実の狭間って…どういう…」
「だから、君が今いるこの場所は夢であり、現実でもある空間なんだよ」
ちっとも説明になっていない。訳が分からな過ぎる。
「そんな、まさか…ファンタジー小説とかじゃあるまいし…」
「じゃあここは君の知ってるお家なのかな?違うよね?」
「…それは」
もちろんこんな不気味な屋敷みたいな所は知らないし、ましてや自分の家でもない。
でも、この人の言う事が本当なら、どうして私はそんな所にいるのだろう。
そしてそんな事を知っているこの人は何者?
私はここから出ることが出来るの?
とっくにパンクしかけてる頭の中で、ぐるぐると答えの返ってこない疑問が廻る。
「……ここから出たい?」
静かな声が耳に入り、俯いていた顔を上げた。
ここから出たいか?そんなの…
「で、たい…」
口から出たのは本当に小さい声だったのに、そんな僅かな音すら拾い上げて、目の前の彼はニッコリと笑った。
「うん。じゃあ一緒にここから出る方法見付けようか。
そう言えば名前をまだ言ってなかったね。
僕はシロノ。君の名前は?」
「私は……優衣」
「そう、よろしくね、優衣ちゃん」
悪夢のような現実の始まり。