第4章 人形部屋の管理人
「んじゃ、開けてやっからさっさと行けよ」
そう言うと、重々しい音を立てて扉が開く。その先には飲み込まれそうなほどの闇が続いていた。
ここ、通るの…?
私が躊躇していると、扉は苛立ったように声を上げた。
「おい!なにもたもたしてんだ!通るのか?通らねぇのか!?さっさとしろ!」
「…っ」
なかなか踏み出せずにいると、シロノがカツンと靴音を立てて前に出る。
そして振り返って私を見ると、いつかのように手を差し出して言った。
「おいで、優衣ちゃん。大丈夫、怖くないよ」
宥めるような声音はまるで魔法のように私の恐怖心を取り除いていく。
私は誘われるままに一歩ずつ足を踏み出して、シロノの手を取った。
「いい子だね。じゃあ、しっかり握っていて。絶対に離しちゃいけない。いいね?」
「…?うん」
その言葉を不思議に思いながらもそう頷くと、シロノは満足そうに笑って歩き出した。
「…おい」
「え?」
体が闇に飲まれる前に、扉に呼び止められて足を止めた。
「お前、気をつけろよ。ここから先も変わらない悪夢だ」
気をつけろと言う言葉に、一瞬管理人さんに渡された紙が脳裏を過ぎった。
あの人にも言われた言葉。まさか扉にまで言われるとは思っていなかった。
違うのは、扉はちゃんと“この先の事”で気をつけろと言っていること。
扉なりに心配してくれているのだろうか。
私はその言葉に小さく頷いて見せた。
「わかった、ありがとう。…ごめんね」
「…けっ、さっさと行っちまえ、ばーか」
まるで拗ねたように言った扉に思わず笑みが零れた。
このままでいると気持ち悪いと言われかねないので、私は「じゃあ」と言ってシロノと共に歩き始めた。
あの扉は全部わかっていたのかもしれない。
その上で私達を通してくれたんだ。
ありがとう。
心の中でもう一度そう言った。
やがて、視界が完全に闇に閉ざされる。
本当の悪夢はこれからなんだ。