第4章 人形部屋の管理人
優衣とシロノを通した後、扉はその門を閉めて黙していた。
不気味なほど静かな空間には扉の他には誰もいない。
さっきまでの事が嘘のように静かだ。本当にやかましい連中だった。
扉は口内に僅かに残る異物を粗食する。それが人間でないのは確かだ。どうせ人形でも突っ込みやがったんだろう。恐らくはあの余所者の提案で。
その証拠に、優衣は最後に「ごめん」と言っていた。黙っときゃいいのに馬鹿なやつ。
それでも扉が彼らを通したのはただの気まぐれだったのかもしれない。
そう、ただの気まぐれ。
それに、俺がなにをしようが俺の勝手だ。誰の指図も受けない。
「…ケッ」
胸糞悪い。
頭にある人物の顔が浮かび、扉はぺっと唾を吐き出した。
「…あ?」
カツンという音が聞こえて、扉はそちらに意識を向ける。人間ではない。しかしそれは見知った人物だった。
「なんだ、てめぇかよクロヴィス」
“クロヴィス”と呼ばれた人物は、何も言わずにただそこに佇む。
無機質な紫色の瞳は扉を見ているのか、もしくは扉を通してその奥を見ているのか。
その様子に扉はケッと吐き出した。
「ったく、相変わらずわけわかんねーやつ。
…なあ、お前その様子じゃあの女に会ったんだろ?」
そう言われて、ようやくクロヴィスの意識が扉に向けられた。どうやら当たりだったようだ。
扉は上機嫌に話し出した。
「あの女がここにいるなんて驚いたろ?俺も最初は驚いたぜぇ。
おまけに余所者まで出てきやがる始末。
おかげで“あいつ”がヒステリック起こして人形(やつら)を壊しまくってんだろ?お前も仕事が増えて大変だな、管理人さんよ」
クロヴィスは何も言わない。いつものようにペンを取ることもなく、黙って扉の話を聞いていた。
扉はつまらなそうに深く息を吐く。
「てかよ、面倒な事になったぜ?
あの女がここにいるってことは、“あいつ”が動き出した証拠だ。まさかマジでやるとは思わなかったけどな。
けどそうなっちまった以上、てめぇも動かなきゃなんねぇ。そうだろ?クロヴィス」
なんとなくわかっていた。
あいつらに妙なもんを渡したのはどうせこいつだ。
そして、この男は“役目”を果たすことなくあいつを見逃した。
しかしそれはこの扉も同じこと。“役目”を果たすどころか、彼らを通してしまったのだから。