第4章 人形部屋の管理人
「あ、あの!あの人は悪い人じゃありません。今までも、私を助けてくれたんです…。だから…銃を下ろしてください。お願いします」
紫色の瞳がシロノから私に視線を移す。
縋るようにその目を見ると、彼はもう一度シロノに視線を戻し、やがてゆっくりと銃を下ろして私を解放してくれた。
「あ…、ありがとうごさいます」
よかった、聞いてくれて…。
これで一先ずシロノが攻撃される心配はなくなったはず。
私はホッと胸を撫で下ろして、シロノの元へ歩み寄った。
「おかえり、優衣ちゃん。怪我はない?」
「うん、私は大丈夫だけどシロノは…?」
「僕は見ての通り、なんともないよ」
ほらね?と言うシロノの体には、確かに傷ひとつ付いていない。
結構な近距離であれだけ連射されたのに、全てあの人形で防いでしまうなんて本当に彼は何者なんだか…。
でも、軍服の人はどうして突然シロノを攻撃したのだろう?
今までのパターンなら、彼は私にだって銃口を向けていてもおかしくないはずなのに、寧ろ私を守るような行動を取った。
どうしてなんだろう?
彼を見ても、その紫の瞳は何も語ることはなかった。
「ああ、そうだ優衣ちゃん。あの扉くんにあげるもの、これでいいんじゃないかな」
「えっ?」
シロノの声にハッと我に返ってそちらを見ると、シロノは床に転がった人形を指差していた。
「…これ?」
その人形は先程シロノが銃弾を防ぐのに使ったもの。
元々あの部屋にあったものなので、元がボロボロだった人形が銃撃によってさらに無残な姿になっている。
恐らくシロノは、人間にそっくりなこの人形を代わりにするつもりなのだろうけど、これではあまりに状態が酷過ぎる気がする。
不安に思いながらシロノを見ると、彼は変わらぬ笑顔で言った。
「と思ったんだけど、蜂の巣にされちゃったからこれはもう使えないね。管理人さん、他の人形を貰ってもいいかな?」
軍服の人…と呼ぶのもそろそろやめて、私も管理人さんと呼ばせてもらおう。本当は名前を教えてもらうのが一番なんだけど…。
管理人さんはシロノの言葉に対して特に理由を聞くこともなく、【どうぞ】と書かれた手帳を見せた。
いいんだ…。