第4章 人形部屋の管理人
シロノが撃たれている。
全身の血が一気に引いていくのがわかった。
「やっ、やめ…!やめてください!やめてっ!!」
声を張り上げて胸を叩いても、軍服の人は表情を変えずに発砲を続ける。
やがて拳銃の弾が無くなったのか、カチカチとトリガーを引く乾いた音がした。
火薬の臭いが鼻をつく。心臓が激しく脈打ち、頭が痛い。
あれだけの銃弾を浴びれば普通は生きてはいない。
それでも、私はシロノの所に行きたくて何とか腕の中から抜け出そうともがくが、びくともしなかった。
「は、離して!やだっ、シロノ…!」
「なぁに、優衣ちゃん」
「…………え?」
聞き覚えのあるなんとも呑気な声がして振り向くと、穴だらけの人形を手にしたシロノが平然とそこに立っていた。
「シロノ…無事だったの…?」
「うん、これのおかげでね。でも、あーあ…。折角の人形がボロボロだ」
勿体ない、と言いながらポイッとそれを捨てた。
穴だらけの人形が音を立てて床に転がる。
シロノが無事だったことには安堵したけれど、まさか咄嗟にあの人形で銃弾を防ぐなんて思いもしなかった。
私が呆然としていると、シロノは軽く服を叩いてから未だ表情一つ変えない軍服の人を見据えた。(と思う)
「そんに警戒しなくても、僕は優衣ちゃんを傷付けたりしないよ。寧ろ、そういう事をするのは君達の方だよね?」
「………」
「ああ、人形部屋の管理人さんには声がないのか。大変だね、お互い」
まるで、古い友人にでも話し掛けているような口振りのシロノに疑問を抱く。
シロノは軍服の人を“人形部屋の管理人”と言った。彼の事を知っていたのだろうか?
軍服の人は銃口を向けたまま黙ってシロノを見据えている。きっとこの人なら、瞬時にリロードをしてまた発砲する事が可能だろう。
そうなった場合、またシロノが上手く弾を回避出来るとは限らない。
そんな事になる前になんとかしないと…!
聞いてくれるかはわからないけど、出来る限り説得してみよう。
そう決めて、緊張した空気の中私は口を開いた。