第4章 人形部屋の管理人
「……」
「……?」
なんだろう。
軍服の人は、私とその隣にある部屋を交互に一瞥すると、また手帳にペンを走らせる。
程なくして渡された紙に目を落とすと、そこには【ここで何を?】と書かれていた。
感情のない目が私を見下ろす。
どうしよう。もしかしてこの部屋、入ったらいけなかったのかも。中もあれだし…。
不安に思いながらも、私は軍服の人に答えた。
「えっと、探し物をしてたらここを見付けて…。あの、この部屋は一体…?」
聞いてもいいものかと迷ったが、思い切ってそう聞いてみると、軍服の人は変わらぬ表情でペンを走らせた。
【ここは人形部屋です】
「人形部屋?」
割とそのままの答えに紫色の瞳を見上げると、彼は浅く頷いた。
【壊れたり使い物にならない人形は、全てこの部屋に運び込まれるので、人形の廃棄部屋とも言えます】
人形の廃棄部屋。
そう言われて、さっき目にした光景が脳裏に浮かんだ。
ボロボロで四肢がもげた本物の人間そっくりの人形達。
そして彼が運んで来たソレも、恐らく人形なのだろう。
極力見ないようにしていた人形が、なんだか可哀想に思えてきた。
私が視線を落としていると、スッと紙を差し出された。
【探し物をしていると仰っていましたが、どのような物を探しているのですか?】
「えっ」
白いページに書かれた綺麗な文字を読んで、ハッとする。
どうしよう。なんて言えばいいんだろう?
扉が食べそうな物を探しています、なんて言って通じるんだろうか?
普通なら頭のおかしいやつだと思われそうだが、既にこの場所が普通じゃない。
この人は多分悪い人じゃなさそうだし、もしかしたらなにか教えてくれるかもしれない。
そう思い、私が「あの!」と言いかけた時、もう聞き慣れた明るく何処か陽気な声が聞こえた。
「お待たせ、優衣ちゃん。気分は…」
シロノの声だと頭が理解する前に、突然軍服の人に強く腕を引かれ、半ば飛び込むようにその胸に倒れ込むと、次の瞬間鼓膜を裂くような破裂音が連続して辺りに響き渡った。
「っ!?」
それが銃声だと気付くのにそう時間は掛からなかった。
慌てて顔を上げると、いつの間に取り出したのか軍服の人は拳銃をシロノの声がした方に向かって、何度も何度も発砲していた。